M. Konczykowski , L. I. Burlachkov , Y. Yeshurun and F.Holtzberg
Physical review B 43 (16)13707,1991
概要
我々は双晶の無いYBCO結晶のTc近傍における磁場侵入(最低)磁場の測定値を報告する。この磁場の値は温度増加につれ線形に減少するがTc近傍で傾きが異常に変化する。Low-does electron 照射によって侵入磁場は劇的に減少する。我々はこの結果を、Bean-livingstone 表面障壁モデルをもとに議論する。
本文
Hc1の測定値は温度依存性などにおいていまだ錯綜した状態にあるが、この論文ではTc近傍でC軸に平行にかけた場合の双晶のないYBCOに関する結果を報告する。双晶が無い場合は最初の磁場侵入時に磁化にkinkが表れる。加えて微小ホール素子を用いて感度を上げて磁束量子1本を測れるようにした。その結果Tc近傍に置いてdTc/dTに変化が観測された。これはサンプルに依存してまた電子ビームの照射で小さくなる。ともあれ照射前のHc1が大きいということは障壁の存在を示していてこれがたぶん測定値が大きくばらつく原因だろう。
サンプルはそれぞれU1a,U1b,U2と名付ける。
電子ビーム照射は20Kで2.5MeVの強さで行った。...中略...
InSbのホール素子でサイズが80x100um^2、感度が50[ミリオーム/gauss]で120K以下ではほとんど温度依存性が無い。0.004gaussが測定可能でこれは一本のfluxに相当する。外部磁場(external field) Haを加えて、ホール素子で磁場Hmを測定した。サンプルによる摂動を△H=Ha-Hmと定義する。△Hはサンプルの磁化と密接に関連しているのでこれを磁化による場(magnetization field)と定義する。fig.1で最初の直線部分はマイスナー効果を示している。実験時の傾きはホール素子のサンプル上の位置による。しかし、その位置に関係なく磁束の最初の侵入を示すkinkの位置は変わらない。
ゼロ磁場冷却と磁場中冷却の測定からは双晶のないサンプルよりも広い範囲の可逆領域が観測された。熱残留磁化測定(thermoremanent magnetization)からは双晶のサンプルは冷却中にさらされたどの強さの磁場でも磁束をトラップしたが、この双晶のないサンプルでは非常に小さな残留磁場しか示さなかった。この二つの結果から双晶の無いサンプルでは磁束のトラップが弱いと考えられる。この結果はfig.1(a)からも裏付けられる。双晶のサンプルでは線形部分からのずれがゆっくりとしたものでありpeakがブロードな形を示すのに比較して、双晶のないサンプルは明確に(初めて磁束の侵入する磁場Hpとして)定義可能な先端を示している。HpをHc1と同一視しがちであるがエネルギー障壁によってHp>Hc1であることを後で示す。
Hpの温度依存性を磁化の曲線から求めた。Hpの実際の値は1-Nで校正される。ここでNは反磁性係数(demagnetization facter)である。Nは市販の測定器による磁化測定の線形部分の傾きを完全反磁性として(-1/4Piと)考えて求めている。楕円近似を用いればやや大きな値となるがこれはもっと大きな修正が必要なことを示している。反磁性による修正のエラーを避けるために生のデータを示したHpの温度依存性をfig.2に示す(白丸)。これから二つの特性が読みとれる。一つはHpが温度上昇につれて線形に減少すること、その部分を外挿すると95.7Kになる。二つ目はサンプルに依存しない温度Tbの存在である。それはdHp/dTが大きな値になる温度として定義される。U1a,U1bでは91.2K、厚いサンプルU2では90Kである。我々はこの厚いサンプルがより低温においてanomalous break を示すことを強調したい。これはTbの値の上記の結果を検証するために、他の2種類の方法で再測定した。一つはZFC磁化測定である。これは反磁性磁化の急激な減少で表される(測定法に関しては今までの方法と同じ?)。fig.2では白抜き四角で表されている。二つ目は磁場の関数としての等温的残留磁化測定である。サンプルはゼロ磁場で冷却され外部磁場Haをいったん加えて再びゼロに戻す。Hpは残留磁化の始まる点(オンセット)として定義される。残留磁化のオンセットは明確で磁化測定曲線のkinkと完全に一致した。こうして3種の測定はすべて同じ結果Hpを与えた。
電子ビーム照射の効果は劇的である。これはTcには影響しなかった。しかしHpは大きく減少した。これはfig.2のaとbに示されている。kinkはいぜん鋭くHpの定義は明確にできる。fig.2に黒く塗りつぶしてデータ点を示すが等温的測定においても同様な結果となった。ZFCでの測定は黒四角でしめす。
fig.2からは照射による影響としてHpの絶対値の減少と傾きの減少が見て取れる。Hpの減少はfluxの侵入に対する障壁の存在を示している。これがHpをHc1よりも大きな値としている。照射された後のサンプルは熱力学的振る舞いに近くなる。純粋に熱力学的値を図中に波線で示した(何から求めた?)。
障壁の原因に関するヒントは磁化曲線の履歴のループにある(fig.3)。fig.3のa(照射前)では磁場減少時においてほとんどゼロの反磁性を示している。照射後はfig.3bによると履歴が小さな幅になっている。これらの現象は70Kまで同じ性質を示す。強いバルクピンがあれば磁化ループはゼロ磁化に対して対称となる。対称性のあるループは可逆と不可逆による寄与の重ね合わせで説明される。これはfig.3には当てはまらない。磁場減少時の磁化が広い温度範囲でゼロであるから。CampbellとEvettsによればほとんどゼロとなる磁化はBean-Livingston表面障壁の特徴である。BL障壁は二つの力の競合から生じる。(1)fluxとその鏡像との間の引力で、vortexをサンプルの外に押しやる?(2)vortexと遮蔽電流との相互作用はvortexを内部に追いやる。遮蔽電流は△Hに比例するので、ループの磁場減少時の初期においてゼロになる。いったん△HがゼロになればBL障壁は消失する。磁場がさらに減少すればfluxは自由にサンプルの外に出ることができる(これは全体の磁化がこの値で安定するまで続く)。(意味不明)照射をすれば状況は一変する。履歴の幅が小さくなることは障壁が小さくなったことを示す。これはもちろんHpの減少と一致する。
表面を変化させることによりBL障壁が変化することは過去にも報告されている。...中略...
HpのTc近傍での異常な振る舞いは(試験的に)以下の説明が可能ではないかと思う。vortexとそのimageとの間の引力が有効になる必要な条件は表面がラムダ程度の範囲でなめらかであることだ。Tc近傍ではラムダが表面の乱れよりも大きくなりBL障壁が大きくなる。低温になればラムダが乱れとだいたい等しくなるのでBL障壁があまり有効ではなくなる。この議論は参考文献の16にもある。
最後に双晶のあるサンプルに関してコメントする。いくつかの要素が測定結果を混乱させて
(ばらつかせて)いる。序ですでに述べたが双晶のあるサンプルにおいてはピン止め力によって不可逆性を示し始める点がはっきりとせず、ぼやける。それゆえに磁化曲線が丸くなる(kinkのこと)。Hpに与える影響で最も重要な点はfluxの浸透に対する障壁となることである。そのような障壁はすでにHpの低温での異常な振る舞いを説明するために提案されているがそれが存在することはこの実験で明確に示されたと思う。双晶の影響はいまだ議論の対象であるから(明確なものではないから)双晶の存在が障壁を複雑にしていることは明らかである。ある条件のときには例えば双晶の密度と方向に依存して、障壁はvortexがサンプルの表面からその奥へ侵入してくるのを妨げるのに有効ではないかもしれない。我々が実験した双晶を持つ二つのサンプルにおいては、一つはHpの温度依存性には異常がなく、もう一つはfig.2と同じkinkを示した。これらの結果はまたどこかで報告する。
結論として、我々はBL障壁が存在する証拠をあげた。高品質のYBCO単結晶における不可逆性はバルクピン止めによるものではない。この障壁によってHpの温度依存性に異常が現れると思われる。HighTc酸化物においてGLパラメーターカッパが大きいことによりBL障壁が特に有効であることは強調されるべきである。これがどれほど結果に影響しているのかその程度は明らかではないがBL障壁が実験結果を複雑にしていることは明らかだ。これらのことから以前の測定結果の再評価が必要と思われる。