Y. Yeshurun,A. P. Malozemof,A. Shaulov
Review of Modern Physics (68)Vol.3,p911,1997
我々は高温超伝導体の非平衡磁化の時間減少に関する研究をレビューするが、これは磁化緩和として知られる現象である。この現象の起源は熱励起あるいは量子トンネリングによるピン止めサイトからの磁束量子の移動による。比較的弱いピン止め力と高い温度が重なって通常の低温超伝導体にはない多彩の現象を生じている。結果は純粋に実験的な見地から評価され、現在の現象論的理論から検討された。
contents
1. Introduction
2. Basic Concepts
A. Flux exclusion and flux lines in superconducters
B. The vortex lattice
C. Defected superconducters:irreversible magnetic properties
D. The critical state model
E. Magnetic relaxation:basic mechanism
3. Overview of Magnetic-Relaxation Experiments
A. Experimental issues in magnetic-relaxation measurements
1. Sample inhomogeneities
2. Field inhomogeneities in SQUID
3. Establishment of fully penetrated flux distribution
4. Complex demagnetizing fields and anisotropy of high-temprature superconductor crystal platelets
5. Complexities of the remanent state
6. Determination of the irreversible component of the magnetization
7. Step by step procedure for measurements of the magnetic relaxation
B. Summary of experimental results
1. Temprature dependence
2. Field dependence
3. Deviations from time-logarithmic relaxation
4. Magnetic relaxation over surface barriers
5. Memory effect
6. V-I curves
7. Experimental determination of U(j)
C. Suppression of magnetic relaxation
1. Modulation of flux profiles and flux annealing
2. Effect of introducing defects
4. Theoretical Approaches to Magnetic Relaxation in High-Temprature Superconductors
A. The electrodynamic equation of flux creep
B. Liner U(j)-the Anderson and Kim model
C. Nonliner U(j)
1. Collective-creep theory
2. Logarithmic barrier
3. Barrier distribution
5. Concluding Remarks
Acknowledgments
References
1. introduction
高温超伝導体の発見は科学者と工学者に大変な幸福感をもたらした。しかし永久電流が時間が経つと減少する事が見つかったためその幸福感は減少した。困難さは通常の抵抗によるものではなく、超伝導体内部の磁束が熱的励起によって移動し消失することによる。この磁化緩和はそれ自身研究の対象となった。工学的な応用はとにかく先へと進み、また磁化緩和さえ利用する。
緩和は磁気双極子の測定によって得られるが、例えばvibrating法で測られる。双極子モーメントの大きさが時間とともに減少するのが観測され、だいたい対数依存性を示す。大きな磁化緩和がすべての高温超伝導体で観測され、またその試料の形つまり単結晶でもバルクでも薄膜でも観測される。
磁化緩和は最初は低温の超伝導体で研究されたがその効果は小さく測定には特別な測定法をとらなければならなかった。この効果を説明するモデルがAndersonとKimによって作られた。彼らは熱励起によってfluxがピン止めサイトからはずれるという基本的なモデルを導入した。緩和はexp(-U/kT)に比例した速度で進行する。このプロセスはfluxの再配置をうながし、fluxと環状電流は関係しているから磁気モーメントの時間変化をもたらす。Anderson-Kimモデルは磁気モーメントが時間に対して対数依存をする事を予言する。指数関数的な励起プロセスであるからゆっくりとした時間依存性を示し、クリープと呼ばれる。
最初の磁化緩和のデータはMullerによって報告されたが、それは非常に異なったモデルに基づいて説明された。彼らはグレイン間の結合が弱いと理解していたのでその様なWeak Links のランダムな配列は a frustrated glassy state を生じさせ、それが時間緩和に対して対数的緩和を示す。この現象が高温超伝導体の磁化の時間緩和に寄与しているがしかしそれは全体ではない。これは Worthington 等の単結晶YBCOでの同程度の時間緩和の観測により明らかになった(fig.1)。この図はゼロ磁場で冷却された試料をSQUIDで測ったもので,0.6kOeの磁場を加えている。磁気モーメントは負であるかdiamagneticである。データは最初の値M0で規格化されている。異なる温度のデータを一緒に表示してある。緩和の変化率は大きく50Kでは時間が二桁過ぎる間に20%変化していて、温度が高くなるほど更に大きくなっている。Anderson-Kimモデルをこの結果に応用するのは極自然だ。この緩和の大部分は比較的小さな励起エネルギー(10〜100meV)によって説明される。この効果の大きさ故に不吉にもgiant flux crep と呼ばれる。
しかしすぐに明らかになったことだがいくつかの重要な点でAnderson-Kimモデルでは説明が困難である。例えば、時間に対する対数依存性は近似的にしか成立しないもっと長い時間の測定では対数依存性からのずれが生じている(fig.2)。このThompson,Sun,Holtzbergの研究は1Tesla加えたときの単位体積あたりの磁気モーメントの時間依存性である。直線からのずれは明らかだ。これに関しては3.B.3で議論する。
他にAnderson-Kimモデルとの不一致が磁化緩和の温度依存性にも見られるがこれは3.B.1で議論する。これらの結果によって新しい現象論的モデルが作られたがこれはBeasleyの1969年の研究を基にしていて、励起エネルギーの電流依存性に対して複雑な依存性を仮定するものである。これらのモデルは4章で検討する。これらのモデルによって実験結果がうまく説明可能となったが、このことはこの分野における成功例の一つとしてあげられよう。これらのモデルの基礎にはfluxの協同的相互作用を含んでいる。それゆえcollective flux creepとして見なされる。理論中に多くのパラエメ−タを含み、2,3の例外はあるものの実験との比較は未だ完全とはいえない。極めて低い温度においては磁化緩和は熱励起現象である故に生じないと考えられる。しかし温度に依存しない残留的緩和現象がミリKで観測されていて、量子トンネル効果を基にした新しい理論で説明されている。これは3.B.1で議論され、4章へのイントロとなる。
熱励起によるfluxの運動は明らかに磁化測定だけではなく他の測定にも表れている。磁場中の抵抗測定においてその超伝導転移をブロードにしている。またV-I、E-Jカーブの形を決定し、そのpowerlaw behaviorをスムーズにしている。磁束の運動とV-Iカーブには親密な関係があると多くの著者が理解している。その理由は以下の様なものである。磁束の運動はローレンツ力と関係しており、これがfluxをピン止めサイトから動かし電場はE=(1/c)*B*vでvはfluxの平均速度である。ピン止めされてはいないがダンプされている磁束格子においてはvは電流密度Jに比例して、こうしてVとIの比例関係が得られる。ピン止めが重要である場合には平均速度はfluxの熱励起によるジャンプと結びついていてそれはv=v0*exp(-U(J)/kT)である。v0はJの関数であるかもしれない。それでEはU(J)に指数関数的に依存する。こうしてflux creepは非線形的なV-Iの関係と結びついており、V-Iの関係はUのJ依存性とEのUに対する指数関数的依存性によって記述される。
これを示す例としてAnderson-Kimのモデルがあるが、これは電流と有効エネルギー障壁の線形関係を仮定しているが、つまりU=U0*(1-J/J0)で、指数関数的なV-I曲線を与える。対数的モデルとして、Zeldov らはU=U0*ln(Jc0/J)を仮定したがこれはpowerlaw V-I曲線を与える。他のモデルは4章で議論する。V-I曲線は磁化測定から求められることに注意すべきである。それはMとJ、EとdM/dtの比例関係を用いて磁化測定から得られる。
flux creepはその他にも多くの測定においてその存在が示されている。時間に依存した磁気トルクの不可逆性の原因ともなっている。AC磁気応答(ac magnetic response)や、その高次成分、またそれの周波数依存性にも。音響的または光学的信号とも結びつき、電気的磁気的ノイズをもたらしている。この論文では焦点を絞って直接磁化を測定したものに関心を集中して直流測定、帯磁率測定、ホール素子による測定などに絞る。
高温超伝導体においていくつかの理由で磁化緩和は重要である。基礎(研究)的観点から、その垂直方向のサイズの効果(不明)温度、磁場などに対する複雑な依存性、それらは説明を必要としていて理論的理解を新たなレベルまで導き、熱励起と新たな量子トンネル効果との協同的理論の構築を含んでいた。これらの点が解明されたことにより磁気的相図とピンニング機構の幅広い解釈をもたらし、熱力学的振る舞いを決定するのに貢献した。
応用から言えば、磁化緩和は以下の点に重要性がある。まず電流電圧特性を変化させること。温度と時間に対する電流密度の依存性を決定すること。永久電流モードを利用するデバイスや磁気共鳴イメージング装置などの安定性の限界を示すものであること等である。これらのことは超伝導工学の商業化にとって中心的な課題である。磁化緩和はこの技術の応用の限界を示しているが、応用を排除(否定)するものではない。いったん理解すれば回避する事もできるし利用さへ可能である。
このレビユーは緩和の実験を要約し、現象論的な理論を用いて関連づけるものである。以前のMalozemoff等のレビユーを拡張する。広く理論を扱ったBlatterや、より広い範囲のレビユーであるMcHenryらの(これは磁気相図を議論したもの)レビユーの補足的役割を持つ。
このレビューの目的は読者に主要な概念、実験結果、理論的解釈を知らせることである。高温超伝導体の発見によって引き起こされた興奮の中、科学的関心というよりフィーバーと言えるほどの、信じがたいほどの量の出版物があった。これはこの分野を初めて知る場合にはその理解を困難にする。どこに信頼できる情報があるのか知るのが困難である。これがこのレビューの特別な目的である。つまり読者にもっとも信頼できる実験結果があるのかそのガイドを果たしまたもっとも確からしい理論的解釈を示すことである。
レビューの構成は以下のようである。次の章で磁気緩和の基本的な概念を示す。これにはflux線の役割、磁化測定の性質?、臨界状態モデル、熱励起等が含まれる。この章は専門家でない人向けである。よく知っている人はとばしても構わない。3章はこのレビューの中心である。実験結果の評価を行い、また実験上の落とし穴、この分野に広まっていて悩ませている、落とし穴についても述べる。4章はより詳しい現象論的理論を取り扱い実験との比較を行う。これらの理論の詳細な点はBlatterのレビューを参照すべきである。5章では結果をまとめる。
2 Basic Concept
A.Flux exclusion and flux lines in superconductors
高温超伝導体の磁化緩和を理解するには超伝導体の磁気的性質を理解することが必要である。このレビューはマイスナー効果から始める。(マイスナー効果:表皮をのぞいて、超伝導体がある一定の外部磁場まではその内部に磁場を侵入させず排除する性質)これは超伝導体を特徴づける性質の一つである。
基本的な磁気測定は(例えば振動法やSQUIDを用いるものなど)磁気双極子モーメントを測定するがこれは電流と半径ベクトルの外積を体積積分したものである。
式(2.1)
より高次の極も定義可能で測定もされているが、ここでは主に双極子を取り扱う。磁化Mは単位体積あたりの磁化モーメントとして定義されるが、非平衡状態の超伝導体では磁化は強磁性体のように空間的に均一ではない。
マイスナー効果を示す超伝導体は反磁性的磁化であり、電流はサンプル内部において外場をうち消す様な極性を持つ。同心円の形状を持つ試料においてはある磁場までは打ち消しは完全である(表面をのぞいて)。この様な損失のない電流をマイスナー電流と呼ぶ。この状態がfig.3である。強磁性体と反対の振る舞いである。
我々のトピックの基本となる点はタイプ1、タイプ2呼ばれる2種の特徴的な磁気的振る舞いがあるという点である。タイプ1は熱力学的臨界磁Hc(この値で初めてバルク内に磁場が侵入する)までマイスナー効果を示す。Hc以上では物質は完全に超伝導性を失う。これに比してタイプ2は最初の臨界磁場Hc1からもっと大きな磁場となるHc2(ここで完全に超伝導性を失う)までマイスナー効果を示す。Hc1とHc2の中間では混合状態、あるいはShubnikov相と呼ばれ、磁束がバルク内に侵入するが超伝導性は失わない。通常のタイプ2の磁気相図をfig.4(a)に示す。高温超伝導体はすべてこのタイプ2でこのレビューの関心事である磁化緩和も混合状態の性質である。
50年代の中頃Shubnikovは、自分自身の混合状態の予言に沿ってタイプ2での磁場の侵入に関してチューブ状あるいはシリンダー状の磁束量子で侵入するという注目すべき理論を提案した。磁束量子線を理解することは磁化緩和の基本である。それぞれ分離して相互作用のない離れた磁気誘導場(magnetic induction field)Bは磁束量子線の中心から指数関数的に減少し、それはロンドン侵入長λ程度の幅である。低温においてCuO2層で1000〜2000Å程度でこの磁場Bを断面積で積分した値はAbrikosov によって予言されていたが量子化されていて下記の値の整数倍である。
φ0=h/2e=2x10^(-7)[gausscm^2]
これは磁束量子格子と呼ばれる。損失のない超伝導電流Jが磁束の周りを巡っている。それはアンペールの法則に従う。
▽xH=(4π/c)J (2.3)
ここでHは磁場でそれはBに近い。その違いはHc1程度でそれは高温超伝導体では小さい。しかしHc1に近い磁場では重要であることに注意すべきである。周りを巡る電流は磁束量子線の別名としてよく使われるvortex(渦)の由来を示しているが我々はflux lineとvortexを同じ線上の物体を示す言葉として区別せず用いる。
磁束量子線も内部に核を持っていてその半径は近似的にコヒーレンス長ξ程度の長さであり、高温超伝導体では低温で10〜20ÅであるがFig.5(a)に示すようにこの内部核(inner core)の内側に超伝導秩序パラメーターは抑制されている(その内側でしか存在しない)。式(2.1)であらわされる超伝導体の磁気的性質はfluxの周りを巡るvortex currents と試料の表面を巡るMeissner currentsの重なりを考慮して導出できる。最近のvortex に関する良いレビューとしてはMcHenryとSutton(1994)のものがある。
B. The vortex lattice
同心円の形状をした欠陥のない超伝導体の混合状態においてvortexは外部磁場Hに応じて均一な密度で6角形の格子をなす。実際 vortex の数密度にφ0をかけると磁気誘導場Bと等しくなる。vortexの密度は試料の中で均一であるから、λよりも大きなスケールでのbulk current (マクロな電流の意)は無い。この場合単一のドメインの強磁性体の様に(つまり内部で均一な原子核スピン密度を持つ様な場合)単位体積あたりの磁荷や磁気モーメントを考えることに意味があって式(1.2)に従う表面電流を合わせたものから計算できる。
古典的アブリコソフの理論からは等方的超伝導体の磁荷は磁場と温度の関数となるがこれは均一な磁束格子のエネルギーを元にしたものである。この理論は高温超伝導体の様に異方性の強い場合にも拡張された。それらの理論においてはCuO2間は超伝導的に弱結合となっていて vortexがc軸に沿ってab面に垂直に向いている故にvortexの(内部)構造はその長さ方向に変調を受ける。示唆的なアナロジーモデルがKesとClemによって提案された。これはパンケーキを重ね合わせたイメージでそれぞれのパンケーキがfig.5(b)に示すようにCuO2面内のvortexに相当する。パンケーキはvortexの軸方向に弱く結合していて適当に励起されればそれぞれスライドして位置を変える。面間の結合の強さが任意の軸方向に加えられた磁場に対する磁気的性質の異方性を決定する。この異方性は高温超伝導体の種によって異なり、YBCOは異方性は小さくBSCCO系は大きい。他に興味深い点としてab面に平行に(in the a-b plane)磁場を加えるとvortex currentは近似的に楕円状に流れmajor axisはa-b面にある。
vortexの物理でこの2,3年新しくあらわれて来たものとして熱力学的揺らぎの問題がある。先に述べたとおりAbrikosovの理論は純粋に古典的な平均場を用いたものであり揺らぎを無視している。揺らぎの取り扱いはKosterlitzとThoulessによる2次元超伝導体の研究から始まった。しかし通常の磁気的性質に関しては静的理論を拡張して異方的3次元vortexの理論に温度あるいは量子的効果による揺らぎを取り込んだ。
個々のvortexはピン止め中心との引力相互作用によって曲がる。この引力はvortex間の反発力と競合する。その様な概念がvortex格子を異方的で弾性的な媒体として取り扱うことによって生じる。この弾性的モデルの変形のモードが熱的に励起される。この効果は高温超伝導体で特に大きくまた一部分は単純で?その理由は低温超伝導体よりも温度領域が高いためである。またGammelはすてきな洞察によってTc以下Hc2以上の領域においてvortex格子が融解していることを示した。この考えによれば融解とはab面でのvortexの長距離秩序が消失しvortexが2次元液体のようにお互いに位置を変えうる状態をいう(fig.6(b))。その後融解はもっと複雑なものと考えられるようになったが、つまり空間的には2種の状態があると考えなければならない。場がc軸に平行な場合の比較的単純な場合でも以下の2種が考えられる。
(1)c軸に沿ったディスオーダー
(2)ab面でのディスオーダー
これらの概念はH-T相図をfig.4(a)に見られるようなものから作り直さなければならないことを示している。その相図の例をfig.4(b)に示すがその細部は多くのパラメーターに依存する。そのパラメーターの中には結晶欠陥の程度も含まれていてこれは次章で述べる。実験方法が多種多様となりそれに伴い異常な振る舞いが観測されているが、これらはしばしばこのvortexの融解と関連していると解釈される。
この概念と実験は注目すべきものではあるがこのレビューの中心ではない。それよりも他の現象を主として取り扱うがそれもまた興味深くH-T相図において融解曲線の下にあらわれる。低温における磁化緩和と場の関係それと高温における融解と場の関係にはなるほど関連がある。前者は緩和がvortexの移動から生じるという意味において後者のの先触れでありそれは温度が高くなり磁場が大きくなるにつれて急激に増加する。
C.Defected superconductor : irreversible magnetic properties
上記の磁束格子と融解理論は複雑ではあるが実験結果と比較しそれを理解するにはまだ十分であるとは言えない。この理由は実際の試料は欠陥を含みこれが磁束量子線と相互作用するためである。すでに見たようにピン止めは緩和現象にとって必要不可欠なものであり相図に与える影響は大きい。高温超伝導体における欠陥には多くのタイプがあり得る。これには結晶成長時にともなうものがあってdislocation,双晶、stacking faults,local defects(これには酸素量、あるいは他の元素による欠陥)などがある。他の種の欠陥を機械的にあるいは照射によって作ることもできる。特に興味深いには高エネルギーイオンによる円柱状の欠陥がある。これはvortexの形状と一致する線状の形をしているためだ。イオンが通過した後は半径が数十Åの円柱状の穴があきだいたいab面のコヒーレンス長に匹敵するのでvortexをピン止めしやすい。vortexの単位長あたりのエネルギーは(Hcξ)^2/(8Pi)のオーダーである。ここでHcはHc2ξ/(2λ)^(1/2)に等しい。ξが小さいのでこのエネルギーは小さく温度で換算すると10K〜100Kで熱励起の効果が重要な影響を与える。ピン止め中心のランダムな配列の効果として単純な6角形配置が妨げられることがある。これはLarkin(1970)によって確認されまたその後LarkinとOvchinnikovによっても確認された。これによれば格子がドメインに区分されてそのサイズはvortexの軸に垂直方向での相関距離に対応した長さである。ピン止めがvortex間相互作用に比較して大きくなれば相関距離は短くなる。この概念は拡張されてvortex軸に沿った方向にも相関距離を考えることになる。
Larkin-Ovchinnikov状態はグラス状態に相当する。というのはもはや長距離秩序が存在しないからだ。しかし融解温度以下ではその構成(configration)は一時的に安定でグラス秩序定数(a glassy orderparameter)を定義できる。この状態はvortexグラス状態と呼ばれる。これをfig.6(c)に示す。H-T相図をfig.4(b)示す。詳細はvortex間相互作用、ピン止め力、構成(配置の意)物質の異方性などの相対的な強弱に大きく影響される。
ピン止めが存在しないならばvortexの配置は常に熱力学的平衡状態に達して、格子か液体状態かとなる。この場合の磁気モーメントあるいは磁化曲線は可逆であって磁場変化や温度変化のこれまでの経緯によらない。vortexグラス状態はピン止め力が存在する場合に生じるが、これもまた熱力学的平衡状態である。しかしピン止め力が存在する場合には他にも主要な物理的現象が存在してこれが磁化緩和の議論におけるエッセンスである。これは非平衡状態あるいは空間的にvortexが不均一な状態でvortexがピン止め井戸にトラップされているため一時的に安定な状態である。この場合には磁気的特性は不可逆である。この非平衡状態が熱力学的平衡状態に緩和する現象が実験によって観測されている磁化緩和現象の基礎をなすと考えられている。
vortexの非平衡状態の配置においてどのようなものが可能であるかは現象論的にも実際上の見地からも重要である。特にvortexの数密度の傾きは場の傾きに相当し、またその場はAmpereの法則をとおしてbulk超伝導電流の基本となる。表面には大きなマイスナー電流が流れているがそれは厚さλ程度の範囲に限定されていて(λは数千Å)実用上は十分な大きさの電流ではない。こうしてピン止めによって促進された(増強された)bulk電流が超伝導線技術の基礎をなす。疑いなくJcを増加させる歴史とは最適なピン止め欠陥を作り出す努力が中心であったといって良い。
マイスナー電流とvortexの組み合わせたものが磁気双極子(あるいはもっと高次の極)を作りだし測定されることになる。以前に取り上げたマイスナー状態のように磁束の侵入を排除するような単純な場合と比較して磁気モーメントは複雑である。それは反磁性でもあるし強磁性でもあり、以下に述べるようにその履歴に依存して決まる。
さらにvortexの数密度の勾配から生じるvortex自身への力を考慮する。これは Friedel(1963)によって導かれたがローレンツ力と類似の形をしていて以下の式で与えられる。
F=(1/c)JxB ... (2.4)
ここでJは空間的に平均した超伝導電流密度でBは同じく空間的に平均した誘導磁場(induction field)である。このローレンツ力に対抗するピン止め力がなければvortexは緩和して熱平衡状態の配置に落ち着きbulk超伝導電流はゼロになる。熱励起や量子トンネル効果が無い状態では電流密度はピン止め力の最大値とローレンツ力が等しくなる値をとり、それがJcを決定する。Jcは平衡状態でない超伝導体における基本的な概念のひとつで応用する場合の基本的な要素である。
熱励起や量子トンネル効果はvortexをピン止め井戸からのがれさせてローレンツ力の方向に動かし電流をJc以下に減少させる。vortexがピン止め井戸から飛び出すのが磁荷緩和の主要メカニズムである。こうして磁荷緩和と電流密度の減少は密接に関係している。
現在の用語でもっとも混乱して用いられているのが、電流密度測定におけるcriticalという言葉である。上で述べた減少した電流密度においてcriticalなものは何もない。なぜなら電圧は電流の増加とともに(急激ではなく)スムーズに増加して、それゆえ電流密度を決定するには電圧の基準(しきい値)が必要である。このレビューでは(注意深く)真の臨界電流値(かなり定義しづらい概念)と、電圧基準により決める測定値から求めた臨界電流値の2者を区別したい。
上記に示したようにどのような超伝導体でも磁気モーメントは2種類の要素から成っている。ひとつは可逆的でもう一つは不可逆的である。不可逆的な要素は非平衡状態での超伝導電流によってもたらされるがこれは試料のそれまでの磁場、温度履歴に依存する。磁荷緩和をするのはこの部分である。また不可逆磁荷を示す超伝導体はその内部に不均一な磁場分布があると強調する事も意味がある。こうして通常の単位体積あたりの磁気モーメントとして定義される磁荷は特に注意して用いなければならない。測定した磁気モーメントを体積で割って磁荷を計算することは可能だがこの値は本質的なものではなく、体積全体にわたって均一な値と解釈することはできない。実際次章で見るごとく非平衡状態での磁荷は試料の大きさとともに増加する。
D. The critical state model
定量的にピンのある超伝導体の振る舞いを評価するには不可逆磁化Mirrとbulk超伝導電流との関係を確定しなければならない。これはcritical state model (臨界状態モデル)を通じて行われた(Bean 1962,1964)これは二つの単純な仮定をもとにしていてすなわち超伝導電流が臨界電流密度Jcで与えられること、次にflux部分の変化は試料平面に導入されることの二つである。
緩和が大きい場合には臨界状態モデルの基礎となる仮定は変化せざるを得ないがその基本的枠組みはそのまま成立する。ここでは真の臨界電流の代わりに時間のスケールで(?)あるいは電場のレベルをもとにして決められた電流密度を用いることができる。以下の議論ではJcという用語に関して通常の理論的記号を用いるものとして次に進む。
MirrとJcの関係は試料の形状に依存している。これに関してCampbellとEvettsの論文が、多種の形状に関して理論的な考察をしている。ここでは図を用いてもっとも単純な例、つまり厚さLのスラブ状の試料を考え、磁場Hと平行に置くものとする。まずゼロ磁場から始めて外場を正負に振りまた最後にはゼロに戻すループを考える。可逆的磁化は無視して、JcはBに依存しないものとする。結果をfig.7に示す。あわせて何点かに置いてのflux分布の断面図を挿入した。
最初はfluxは表面から侵入し、その傾きは式(2.3)の(4π/c)Jである。磁束の侵入した距離は(前線)容易に計算できて、cH/(4πJc)である。磁化は4πM=B-Hであるから、この時
4πM=cH^2/(4πJcL)-H (2.5)
fluxの先端が中心に達すると(H=2πJcL/cの時)磁化は最大値となって
M=-JcL/4c (2.6)
これがBeanモデルから得られる有名な結果であり、試料形状Lに線形である。式(2.5)(2.6)と同じような結果が履歴のループの他のポイントでも導かれる。注目すべき結論としては磁場が減少するループにおいて磁化はその符号を変えて正になり強磁性となることだ。こうしてfluxが排除される反磁性的な場合とfluxが集中する強磁性的な場合の二つの振る舞いが、非平衡状態下では可能となる。(実現している)
磁場が最初に増加した後ゼロに戻された時、磁束が試料内部に取り残されているが、これをremanent magnetization(残留磁化)という。より正確には等温的残留磁化と呼ぶべきで、それはこの過程が温度一定の条件下であるためだ。というのも磁場中でTc以上の温度から冷却して磁場をゼロにした場合に生じる残留磁化とはやや異なるからである。こちらは熱的残留磁化(thermoremanent magnetization)と呼ばれる。熱的残留磁化をあらわす式も温度に依存するパラメーターを仮定することにより等温的な場合と類似の方法で導きだすことができる。
磁場緩和は上記に述べた非平衡的なflux分布の場合に生じる。ゼロ磁場下での測定が容易であることから多くの研究が熱的あるいは等温的残留磁化を対象にして行われた。しかし3章で述べるようにこれらのデータを量的に評価する場合には重要な問題が存在する。実験で用いられた場の(条件の)ほとんどは反磁性的であれ強磁性的であれ履歴のループのプラトーの部分では磁場が十分に大きくdemagnetizing(磁性をのぞく)効果が最小になっている。
E. Mgnetic relaxation : basic mechanism
さて我々は磁化緩和の基本的概念を理解する所までやってきた。非平衡状態が緩和する過程ではいずれも電流ループの再配置が生じてそれゆえ時間とともに磁気モーメントが変化する。こうして測定にあらわれる磁化緩和はfluxがピン止め井戸から自発的に飛び出すことにより生じていると考えられる。その様な運動は通常熱励起によって生じるが、その他にも量子トンネル効果によっても、あるいは他の外部要因によっても生じる。
熱励起によるvortexのホッピングはAnderson(1962)がKimの実験結果を説明するために考えた。 In it's simplest form, the idea can be presented as follows. (以下に述べるように単純な形でその考えが表されてる)通常のアレニウスの関係によれば hopping time,tはU,k,Tを用いて
t=t0*exp(U/kT) (2.7)
t0("effective" hopping attempt time)はミクロなattempt time とはオーダーが異なる程食い違っている。(これは3章で示される)ホッピングはF=(1/c)J*Bによって手助けされる。(式(2.4)を見よ)それゆえUはJに関して減少関数でなければならない。最初の近似としてJに関して線形であるとして
U=U0*(1-J/J0) (2.8)
ここでU0はドライビングフォースがない場合のポテンシャルである。Jc0は臨界電流に相当して(熱励起がない場合に)障壁の傾きをゼロにする電流値である。(2.7)(2.8)を組み合わせてJに関して解いて古典的なfluxクリープの方程式を得る。
J=Jc0*[1-kt/(u0)*ln(t/t0)] (2.9)
この式の誘導は極めて単純で正確なものではない。もっと適当な取り扱い方を4章で行う。
式(2.6)によればMはJに比例するので、そこからflux creepの特徴としていくつかあげられる。磁化は時間とともに対数的に減少すること、温度が上昇すると急激に小さくなることがあげられる。式(2.9)がどの程度正確であるのかは4章で議論する。
式(2.9)はしばしば(我々もここでそうするのだが)Anderson-Kimの式と呼ばれる。一般的な理論としてもっと広い概念を考えていた原著者らにとって不本意であろうが彼らの名前はUがJに線形依存する場合の理論と結びつけられている。先の理論的展開はBeasleyによって始まりJに対する非線形性を考慮するものだった。非線形性を考慮する効果は最近になってやっと重要な要素となったが、これはvortexグラスとcollective-creep理論の登場以後のことである。これらの理論の結果として電流ゼロの極限でのthe barrier divergesが第2種超伝導体の相転移の新たな性質として考えられた。
式(2.9)によれば緩和率はJc0,U0,t0に依存する。これらのパラメータを除去するには規格化された緩和率を用いるのが便利である。式(2.9)から
S=(1/Mirr)(d Mirr/d lnt)=(d lnMirr/d lnc)=-kT/U (2.10)
こうしてAnderson-Kim理論においては規格化磁化緩和を測定すればU0を決定できることになる。この単純な結果が得られることが磁化測定を行う理由であるがすなわち緩和測定によりピン止めエネルギーを求め、それによりピン止め機構を研究することを目的としている。
しかしU(J)の非線形性は解析を複雑にする。これをfig.3に図示する。この図でJnは実験中での測定した電流値を示している。U0はJ=0での真のポテンシャルを示している。Ueffは"effective" activation barrier(有効ポテンシャル)を示していて、これは式(2.8)から由来するU(J)のJmにおける接線のU軸切片である。このように(知ることが可能である)Ueffは真の値であるU0よりも小さい。その上UeffはU(J)の曲線に依存しながらJmの値によって大きく変化する。これは(時間緩和において)測る時刻によりUeffが異なることを意味する。この問題は高温超伝導体において重大で、というのも時間とともにJが大きく変化するためである。式(2.10)を単純にあてはめることは、他にも複合的な機構が関係してくることから難しくなる。例えばポテンシャルの大きさに分布が存在したり表面バリアの存在などがある。
高温超伝導体において磁化緩和のsheer size(垂直方向の長さ?)が原因で熱励起が主要なflux creepのメカニズムであることが最初は明白ではなかった。この熱励起による影響はこれまでの超伝導体では非常に小さい。高温超伝導体の研究が立ち上がり始めた段階では他のメカニズムが、すなわちランダムに配置されたジョセフソン結合をもとにしたものが提案された。このモデルも非指数関数的で大きな緩和を予言するものであった。その理論は焼結体だけでなく多結晶体や粉末状の試料にも応用されて粒界でのジョセフソン結合を示す結果を得ている。(その上結晶体においてもまた)後者の例においてはその起源やどこが弱結合なのかその場所に関する論争がなされた。双晶の境界面や酸素欠陥のネットワークなどが提案された。しかし今では単結晶の場合はflux creepモデルで説明がなされている。
単純なAnderson-Kimモデルに戻って考えてみると高温超伝導体においてなぜ磁化緩和が大きいのだろうかという疑問が生じる。Yeshurun等が最初に提案したものは、温度とポテンシャルの大きさの二つが原因であるとされた。通常のvortex lineを仮定して、これはξの半径を持つので凝縮エネルギー(Hc^2/8π)ξ^2からポテンシャルを見積もることができる。高温超伝導体においてはξが小さいので式(2.9)のU0は小さくなる。同時に臨界温度が高いのでkT/U0の項が大きくなる。これらの効果が合わさって式(2.9)の時間依存する項が重要性をまして"giant flux creep"を生じる。
基本的なAnderson-Kimモデルを用いて大きな磁化緩和の大まかな説明が可能である。しかし研究が進むにつれて理論的にも実験的にも予想しなかったことが現れてきた。例えば式(2.10)ではSが温度に線形であるとなっていて加えてT=0でゼロにも近づかない。我々はこの問題や他の問題も合わせて3章で議論する。実験事実より浮かび上がった問題点はAnderson-Kimモデルの変更を促し4章に取り上げるごとく、良い洗練されたモデルの展開をもたらした。
3章 Over view of magnetic-relaxation experiments
高温超伝導体の磁化緩和に関する研究は非常に多い。これらの研究から明らかになる傾向を概観するよりも先に3章のAで実験上の落とし穴に関して述べた。これが不幸なことにそれらの実験結果から導かれた結論を信頼できないものとしている。それ故この分野に精通するためにはこれらの実験結果をふるいにかけることが必要であり、我々はこのレビューでそれを試みる。信頼できないカテゴリーのうちに我々の初期の研究も含めなければならない。
イントロで既に述べたように磁化緩和はすべての種の高温超伝導体で測定されている.....中略.....電子をドープした超伝導体であるNdCeBaCuOや、Cuを含まないBaKBiOですら測定されている。これらの研究は(ここであげなかったものも含めて)すべて大きなdM/dlntの値を示している。一般的にはYBCOはBSCCOよりも安定である。同様に?薄膜は同種の物質の結晶や焼結体よりも安定である。サイズ効果の他にも磁化緩和に関して高温超伝導体に共通する特徴が3章Bに要約してある。3章Cでは緩和を小さくする種種の実験的方法に関して述べる。
A. Experimental issues in magnetic-relaxation measurements
この章では我々は以前の研究を(あるいは現在のものも含めて)回想してその主張の妥協点を見いだしてみる。このような状況は他の新分野においてはあまりなく、高温超伝導体において特に顕著で、Bednorz,
ullerそれにWuの発見直後の時期に熱心に研究されまた出版が相次いだこの分野の特殊性である。
概して、磁化緩和に関する初期の研究は、緩和の大きさの程度と温度、磁場依存性の一般的傾向を正確に捉えていた。しかし定量的議論をするには、読者は(特に詳細な説明(解釈)を試みる理論家は)より新しい研究を参照するように注意しなければならない。この分野に新しく参入する人もまたこの分野の研究を継続して行おうと考える人も、以下に要約された実験結果に注意すべきである。
1. Sample inhomogeneities
初期の研究において特に重要な点は研究に用いられた試料の質である。多元素の物質において均一な試料を作り出すことの困難さや均一な酸素濃度を得ることの難しさはこれまでにもよく述べられた所である。磁気的な信号は、物質内を循環する電流の作る磁場を積分したものだから、測定点が異なれば異なる緩和率を示すから、特殊な緩和を示すことになるかもしれない。明らかに磁化緩和のデータを解釈するにはvortexの配置が規則的である必要がある。新しい測定技術である空間的走査測定、ホール素子アレイ、磁気光学的画像化によって磁化の不均一性の効果が測定された。これらの実験によって、vortexの侵入時の不規則性が明らかになり、単純なBeanモデルによる解釈が正確なものではないことがわかった。単ホール素子による走査測定は測定中にflux creepが生じることに注意すべきである。ホール素子アレイは同時測定という点で望ましいものである。しかしまた、ホール素子アレイは一つの軸に沿っての測定に限定されるが、磁気光学的測定は試料表面にわたってある瞬間の映像を得ることができる。しかしホール素子アレイは現在改良が進んでいて、2次元的アレイも開発されている。
作成したままの状態でもっともクリーンな試料はYBCOであるが、これに関しても内部の酸化の程度や酸素欠陥のネットワークの存在に関して(部分的に酸素欠陥が集まっている?)議論の余地がある。最近では完璧なBSCCO結晶の作成に研究が集中されている。このレビューの大半もこの2種の物質に関するものである。YBCO薄膜もまた質は高い。Tl系の試料も良質の結晶と薄膜が利用できるようになって、この系の研究もこれから進むだろう。
他に取り上げる点は、ピン止め機構(それには純粋な結晶も含まれる)の複合的なメカニズムに関してである。これに関して最近YBCOとBSCCO結晶で見事な研究成果がある。この問題は表面ピンと表面障壁に関するもので高温において支配的になる効果である。これに関しては3章B.4で取り扱う。他の例としてYBCOにおいて双晶が存在することによりfluxの侵入や排出が妨げられることがある。
2. Field inhomogeneties in SQUID magnetometers
2番目の問題はSQUIDの使用に由来する。微小な信号を観測できることから、他の一般的な振動磁気測定装置などの代わりにSQUIDは良く使用されるが、履歴測定では何らかの予防策が講じられるべきである。
SQUIDは普通円筒状のチャンバーの中に配置された(二つの)ピックアップコイルの間を何回も試料が上下するようなモードで使用される。gradiometerの配線になっていれば(コイルがひねった配置になっている場合)一般に市販されている製品の場合8cmほどコイルは離れて配置されている。同時に超伝導磁石で作り出された磁場がこの測定空間に加えられている。この磁場が均一でないところから問題が生じる。試料が上下する空間において2,3%磁場が変化する。線形の磁化率を測るような可逆的な測定ならば問題はない。得られる信号は試料が通過する磁場の平均値を反映したものとなる。しかし磁化履歴を示す試料なら(これには第2種超伝導体がすべて含まれる)不均一な磁場を上下することによって小さな履歴ループを生じる。このような複合的なループは磁化の状態を可逆的な極限に近づける?。この効果はテープレコーダーなどの交流消磁と類似している。数%の磁場の不均一さを訂正するのではなくて、不可逆的な超伝導電流による履歴を完全に消してしまう。
多くの報告において、特定の温度と磁場の領域で、輸送電流による測定では大きな臨界電流が観測されているのに、磁化履歴では可逆的な結果を得ていることがある。これは磁化の測定ではcreepが大きいとき、たとえJcが大きい場合でも不可逆的磁気モーメントは小さくなるが、輸送電流による測定では直接Jcが反映され電流はJcに達するまで流れるからである。先の段落の観点から考えれば磁場の不均一性がこの食い違いに寄与しているかもしれない。このような理由から磁気的測定のデータを疑ってみる方が妥当かもしれない。特に先に述べた問題に関する認識が明確に示されていない著者の場合には。
磁場の不均一性に関して、通常の解決策としては試料の移動する距離を1,2cm短くすればよい。不幸にもこの方法は測定の感度と正確さを犠牲にする。試料の振幅を可変して試してみれば安定で意味のある測定が可能かどうか確認することができるだろう。特定の温度と磁場の領域で超伝導体が可逆な振る舞いをする事に注意しなければならない。これが温度磁場平面における”可逆線”と上部臨界磁場を示す線に囲まれた領域である。この領域ではTc以上の領域と同じようにfull sample translation amplitudes can be restored.
3. Establishment of a fully penetrated flux distribution
ほとんどの磁化緩和測定では不可逆磁化Mirrは永久電流Jに比例すると単純に仮定している。例えば式(2.6)のBeanモデルによれば磁場に平行に置かれた厚さLのスラブにおいてMirr=-JL/(4c)である。ここでJはスラブの表面を周回する電流で磁場に垂直であり、スラブの両面でそれぞれ反対方向に流れている。しかしこの関係は磁場が試料内に完全に入り込んだ場合に正しい。第2種超伝導体が磁化されるとき最初は表面から磁場は侵入し電流は両側の表面で反対方向に流れる。磁場が完全に侵入するまではJとMirrの関係は非常に異なったものになって、4πMirr=(cH^2/(4πJL))-Hである。磁場が増加から減少に切り替わった時はもっと複雑になる。ある範囲の磁場までは右回りの電流と左回りの電流が混在する。これは明らかに磁化緩和のデータの解釈を複雑にする。
実際良く引用されたYeshurun and Malozemoff等の論文は当の本人によってこの観点から見直され、後に注釈が追加された。この問題を解決するには、測定を始める前に磁化履歴のループの形を見て完全に磁場が侵入しているかどうか確認することである。だいたいの目安として、我々は最初の磁化履歴ループで磁化が最小となるところ(反磁性が直線からずれる所だと思う)の1.5倍の磁場を目安にしている。他の目安としては部分的に磁化された場合のBeanモデルの式を用いる方法がある。
4. Complex demagnetizing fields and anisotropy of high-temprature-superconductor crystal platelets
高温超伝導体のパウダーは複雑であるから、磁化緩和の実験はこれまでの所、結晶を測定して、結晶なら組成比などが良く調整されていて全体に均質であろうと考えられている。不幸なことにこれらの結晶は異方的に成長して板状となり、加えて超伝導の性質も異方的である。これが重要な問題を引き起こす。他方で板に平行に磁場が加えられた配置での実験は非常に磁場の角度に敏感である。異方性が弱いYBCOでさえ、1/10度の精度が要求される。この敏感さは試料の異方的な形状から生じているようだ。aあるいはb軸に垂直でa-cあるいはa-b平面内を流れる循環電流は結晶厚で限定される小さな領域を流れている。しかし、c軸に垂直でa-b面内を流れる循環電流はもっと大きな領域を流れる。磁気モーメントは電流値と断面積の積だから、c軸に平行な成分はちょっとした角度のずれで支配的な大きさとなる。緩和率は角度によって異なるので、異なる成分からの寄与を分離することは難しい。(deconvoluteの意味が不明)a-b面に平行に磁場を加える場合の磁化緩和測定においては角度設定の正確さに関して明確に言及する必要がある。
補足的な問題として、試料面に垂直に外場を加えた場合の問題がある。これは論文でよく見受けられる状況である。低磁場の領域において、(循環電流によって作られる)Bは外場に比較して無視できないほど大きくなり、平面的な形状から強い反磁性を示す。この磁場は試料板をwrapping around して、試料表面において面に平行な方向を向いている。こうして外場HとBがc軸に平行になるような単純な配置とはならず、試料内部では?複雑な配置となっている。加えて緩和の測定中にも誘導磁場(induction fieldたぶんBのこと)は試料表面で変化する。磁気モーメントが大きいならこの効果は重要となる。それゆえごくまれに、厳密にB一定で測定された実験もある。(自信なし)
Jcに異方性を仮定して磁場の分布(断面図)を計算した例がある。しかしこの磁場の複雑さと異方的な成分が混じっていることを考慮すると定量的で有意義な結果が得られるのは望み薄である。この問題をバイパスする実験的方法は十分大きな磁場を加えて反磁性効果によるBへの寄与を小さくすることである。この場合flux lineは外場Hと基本的に平行である。反磁性効果の影響を小さくするのに必要な磁場は経験的に履歴曲線から決定され、便宜的に外場を反転させて磁化履歴ループにおいてプラトーとなる磁場の大きさぐらいである。もちろんこの方法は測定する外場やflux密度の範囲が限定される。注意すべき点として、薄膜では試料の体積が小さくそれゆえに磁気モーメントが小さくなり、反磁性効果は重要ではない。またいくつかの例に置いては、Bの大きさの変化が重要では無い場合もある。
他の解決策として試料の形状を板状ではない形につくりかえてしまう方法があって、人工的に結晶を壊し反磁性磁場の影響を小さくするやり方である。最近力技でBSCCOを壊した例があって、確かに履歴ループに変化が見受けられ、これは計算による予想を裏付ける結果となった。しかしこの方法は反磁性によるゆがみの無い履歴ループを近似的に得られるが、その反面きちんとした幾何学的な場合の履歴ループに関する情報を失うことになる。これは他の理由によるが、それに関しては後で議論する。
5. Complexities of remanent state
残留磁化による磁化緩和の測定においては(特に緩和の正確な関数式を求めようとするものにとって)他にも悩ましい問題がある。一般的にピンニング力(それゆえに臨界電流)はflux の密度に依存するが、これは特に密度が低い場合の低密度極限において成り立つ。こうして残留磁場において、あるいは低磁場において、磁化緩和測定はいずれの場合でもいろいろな寄与を合わせて積分したものとなる。詳細な空間的測定なしではこれらの寄与を評価することはできない。
残留磁化測定にはもっと基本的な問題がある。式(4.2)以下の基本的なflux-line 方程式まで戻る必要がある。flux-line currentはホッピング率に比例するが、しかしまた、まず第一にfluxの密度に比例する。もし磁場がゼロであったなら高いホッピング率も意味がない。それ故低いflux密度ではflux creepも閉ざされる(生じない)。さらに悪いことに残留磁化測定において試料表面ではflux密度が最小であり、そこでは試料の性質がbulkとは異なる。
式(4.2)の理論的な解はBが試料の端から中心まで線形に変わるとき単純である。この条件はBの変化が小さい場合も当てはまる。実験的にはこの条件は十分大きな外場を加えることにより満たされる。しかし残留磁場の場合には、その保証はできない。非線形の磁場の空間分布は磁化緩和の対数的時間依存性からのずれを生じる。それゆえ残留磁化の状態での実験結果をもちいて、対数的時間依存性からのずれをより詳細な理論で説明しようとする試みには疑問がある。
興味深いことに、平らな形状の場合には、反磁性効果が大きいにもかかわらず、残留磁化の測定でも問題が少なくなる。平らな試料では試料の反磁性効果が寄与するBの成分に、外場に対して垂直な成分と平行な成分が存在する。反磁性効果の結果として、B平行は試料の端と中心で符号が反対になり、試料上にB平行=Hとなる線がある。flux creepが存在すれば、試料の中心でB(誘導磁場)は増加し、端で減少する。B平行=Hの線ではB平行成分は時間に依存せず一定である。残留磁化状態ではこの線はB平行=0に相当する。明らかにそこでの緩和率はゼロである。しかし緩和の過程はB垂直成分において進行する。こうして残留磁化状態での磁気モーメントはゼロでない反磁性効果ゆえに緩和することになる。
6. Determination of the irreversible component of the magnetization
磁化緩和は超伝導体による不可逆磁化Mirrから生じるので、dMirr/dln(t)=dM/dln(t)の値を、他の不可逆的要素によるバックグラウンドに関わらず、決定することができる。しかし我々は式(2.10)に関して、ピン止めエネルギーを評価するには、Mirrの絶対値を決めることが重要だということを明確にしておきたい。不幸なことにこれら寄与による測定値の訂正はほとんどなされていない。
fig.9のコメント
典型的な高温超伝導体のM-Hカーブ。不可逆成分は上部と下部の値の差の半分である。(a)YBCO薄膜の80Kでの磁化測定。この場合は可逆的な成分は無視できるほど小さい。(b)YBCO単結晶の84Kでの測定。上部のラインと下部のそれの非対称性は可逆的成分と不可逆的成分の寄与で引き起こされている。可逆的磁場は上部のラインと下部のラインの平均である。(c)YBCO単結晶の測定。表面バリヤーによって生じている。
Mirrの不可逆的成分は履歴のループ(fig.9)から導くことができる。この図はYBCO試料の3種類の典型的な履歴ループを示している。fig9.aはM=0を中心にして対称的なループで、Beanモデルによって予想されるものである。これに比較してfig.9b,cは非対称的である。fig.9bの非対称性は可逆的成分と不可逆的成分との重なりによって生じている。fig.9cの非対称性は表面障壁の効果で生じているが、これに関しては3章B.4で議論する。fig.9aとbにおいて、プラトーの値の差の半分がある外場での不可逆磁場Mirrに相当し、一方で平均値は、M=0の近辺での対称性からのわずかなずれとなるが、これはMrevに相当する。しかしこのような導き方はfig.9cには当てはまらない。bulkピン止めではなく、Bean-Livingston表面障壁が不可逆的なループの性格を決めている。その様な障壁の存在は外場を減少させる過程においてM≒0の値をとることからわかる。
非常に大きなcreepによって、履歴のループと同様に、磁化の初期値は外場のスイープ速度によって大きな影響を受ける。実際、Mirrのスイープ速度依存性と磁気モーメントの時間依存性は似たような結果を与えている。この二つの実験はJcとピン止め障壁を導き出す上で強い相関がある。
途中で外場のスイープを周期的に停止させながら測定した履歴ループの例をfig.10にあげる。外場が一定に保たれて減少した後で(垂直成分)Mは(急激に)磁場のスイープが継続されるとすぐに、その前のプラトーの値を保つ(横に動くと言うことか?)。プラトーのレベルは外場のスイープ速度に依存する。不幸なことに、Mirrがプラトーの値に等しいと考えている論文の多くが、上記の外場のスイープ速度依存性を無視していて、またM=0近傍の非対称性が可逆的磁化から生じていることも無視している。
7. Step-by-step procedure for measurements of magnetic relaxatio
この小節のまとめとして、ここで我々は上記の実験上の落とし穴を避け理論との比較を容易にする測定の手順を順々に述べていこう。例として、ここでは外場をstep downした時のflux排出の場合をあげる。手順は以下のようなものになるだろう。
(i)試料の質、外場の均一性、外場と結晶軸の方位を確認する。
(ii)緩和を測る温度で外場を一定のスイープ速度で変化させながら、履歴ループを測る。
(iii)初期のループ(M=0,H=0から始まった)から、最小磁化に相当するHmを決定する。fluxが全体に侵入し始める外場H*はだいたい1.5xHmである。
(iv)磁化の測定で上昇時と下降時においてその値が一致する磁場を見積もる。この磁場はそのスイープ速度での不可逆磁場Hirrである。
(v)履歴のループの上昇時と下降時の磁化の値を平均する事により不可逆成分Mirr(H)を決定する。
(vi)試料を再びゼロ磁場でTc以上の温度から測定温度Tまで冷却する。Hirrより小さく(磁化が緩和する磁場より小さく)磁場が全体に侵入し近似的に線形なflux分布をする程度まで(少なくとも3xH*たぶんもっと大きい)外場を加える。
(vii)外場をステップ△H(2xH*のオーダー)で減少させflux分布を反転させる。(step-up測定時はこの手順不要である)
(viii)磁化を時間の関数として測定し、dM/dln(t)を求める。
(ix)規格化された緩和率を決めるために得られた結果を(viii)のMirrでわる。
(x)(vii)に戻って異なる磁場での測定を繰り返す。
確かに上記の手順は唯一の方法ではない。先に述べた問題を考慮して、意味のあるデータを得るための、他の方法も考えられ得る。
B. Summary of experumental results
さて、今度は実験の検討に入る。先に述べたことを考慮して、信頼できると思われる実験をを検討してみよう。他でもなく、以下の点から検討を始める。磁化緩和の測定の多くが履歴の測定に関するものであり、ゼロ磁場で冷却されて後、等温的に適当な大きさまで磁場を加えている。
他の条件としては磁場中冷却での磁化測定があり、これは初期の実験に多いが、この場合は平衡条件が成立していると考えられる。事実この場合にはYBCO単結晶において、小さな緩和が観測されている。このことはグラス理論やfluxピン止めの理論と比較する上で重要な示唆を含んでいる。グラス理論は磁場中での平衡条件を示すものだが、臨界状態モデルは磁場中冷却において不可逆的成分が小さいことを予言し、その結果として緩和も小さい(?)。
1. Temprature dependence
たぶん多くの研究が緩和率の温度依存性に焦点を当てている。普通の時間間隔での測定では近似的に対数依存性を示している。それゆえ通常、論文ではdM/dln(t)あるいは規格化された(1/Mirr)dM/dln(t)(これをdln(Mirr)/dln(t)と定義)を用いている。後者の場合には規格化は単純に初期値で割っているが、Mirrの時間依存性は小さい。式(2.10)に関して議論したように規格化緩和率に焦点をあてるのには理論的な理由があるが、先に述べたように、この値は可逆的な成分や基板、サンプルホルダーなどの寄与を含んでいる。この様な理由で規格化された緩和率はもとのままのデータよりもやや信頼性に欠ける。
fig.11はYBCO単結晶に関して、完全に外場が侵入した状態での、通常の等温的履歴測定の手法で測定したdM/dln(t)の典型的な結果を載せた。この様な実験のほとんどが温度に関してピークを示すが外場を増加させるにつれてピークは低温に移動する傾向がある。このピークは最初驚きを持って迎えられたが、なぜなら高温ではより大きな緩和が期待されるためである。しかし以下のことに注意すべきである。実験において、測定する時間の範囲は限られる。(つまり極端に短い時間や、逆に長時間の測定は困難)それゆえ異なる温度では、緩和率のカーブの異なる部分を観測することになる。低温では緩和は遅いと考えられ測定においては初期の過程を観測する。その一方高温では減衰は速く、実験においては(すでに緩和が進んだ)しっぽを見ることになる。これによって高温での緩和率の遅さを説明できる。
YBCO単結晶を用いて、1Teslaの外場をc軸に平行に加えた場合の、規格化された緩和率dln(Mirr)/dln(t)の温度依存性の測定例をfig.12にあげる。図には3MeVのプロトン照射の前後のデータを載せている。これは驚くべき結果である。Anderson-Kimモデルの予想する温度に関して線形の依存性(式(2.7))は、低温超伝導体では正確ではなかったが、基本的には妥当出会った。このモデルによれば、温度が増加するとき障壁エネルギーは減少し、準粒子励起によって超伝導凝縮エネルギーが減少しTcでゼロになる。規格化された緩和率は増加曲線となると考えられるが、fig.12は反対の傾向を示していて中間の温度領域でプラトーな傾向を示す。
測定結果を4個の領域に分けることは有効である。もっとも低温の領域(2K以下)では、外挿すると有限な値の切片を持つようである。これも意外な結果で、熱励起であればT=0で凍結されると予想されるからである。有限な(ゼロでない)緩和が非常に低温でも存在することはChevrel-phaseでも観測された。詳細な研究が高温超伝導体においてもmKのオーダーでなされており、種々の試料で低温でのプラトーが観測されている。典型的な例としてAupkeの測定例をfig.13にあげる。超低温での磁化緩和測定は、flux creepのメカニズムに重要な示唆を与える。短いコヒーレンス長によって促される量子トンネル効果を考えるうえで興味深い。
Seider等の発見によれば、量子トンネル効果は単純な過程ではない。最初の論文で、彼らはYBCOでのトンネリングは磁場に依存し、ある臨界磁場以上では消失する(どうなるのだろうか?)Seiderは1K以下での温度依存性を測定して、Vortexトンネルに関して、温度に対する線形依存性を確認している。
4Kから20K(領域2)ではfig.12は単調な増加傾向を示しているが、十分に線形性を確認するには十分ではない。この領域は althought rather lamely Anderson-Kimモデルより導かれる式(2.10)でもって解釈される。障壁は10meV〜50meVの範囲と推論される。
fig.12の中間温度領域でのプラトー部分を、だいたい0.2Tcから0.8Tcの範囲であるが、これを領域3とする。多くのYBCOに関する研究があり、他のデータはブロードなピークを示している。これらのYBCOにはフラックス法、溶融法等の単結晶及び薄膜が含まれているが、プラトーあるいはブロードなピークの最大値の値は(つまり横軸の値は)0.02から0.04の間の狭い範囲に分布する(c軸に平行に1Teslaの磁場を加えた場合)。これはプラトーに何か共通するものがあることを示している。
プラトーの存在はAnderson-Kimモデルにとってやっかいで、それは式(2.10)によれば障壁の値が温度とともに線形に増加する必要があるからだ。このため、他のモデルが提案されて、それらは障壁の大きさに分布を持たせたが、それによってプラトーの値がいろいろな物質で共通していることを説明するのは困難である。
プラトーに関して他の解釈が、最近の理論を用いて考案されていて、これにはcollective vortex creep や vortex-glassモデルを用いた解釈がある(4章をみよ)。プラトーの値は磁場に依存することに注意しなければならない。例えば、YBCO単結晶において、磁場を0.2から1.7Teslaに増加させるとき(c軸に平行)0.05から0.015に減少する。この現象はcollective-creep理論によって説明される(4章C1、特に式(4.23))。この理論はsingle-vortex creepよりも大きな μの値(creep parameter)を予言するが、高磁場でのプラトーの値が小さくなることとも一致する。μに関しては4章C1でより完全な議論を行う。
4番目の領域では温度がTcに近づいていて、そこでは実験的に限界となり、Mirrが小さくなる。その結果Tc近傍で規格化された磁化緩和率が増加するのか減少するのか、それともプラトーなのか決定することが困難になる。たぶんもっとも正確で信頼できる結果はKonczykowski等のデータで小さなホール素子を用いて測定している。それによればYBCO単結晶においてプラトーは a fraction of a degree from Tc ぐらいまで持続している。Anderson-Kimモデルを用いては、Tc近傍は記述できないことに注意しなければならない。これは単純にkT>>Uのためである。この領域では磁化緩和は輸送電流の場合の散逸と密接な関わりがある。
YBCOのデータに比較して、BSCCOとTBCCOの単結晶においては中間温度領域でプラトーを示さない。そのかわり規格化磁化緩和率はピークを示す。事実複数の研究グループが報告していて、BSCCOとTBCCOの両方でダブルピークが観測されていて、30Kにディップがある。これは二つのピン止めメカニズムの移り変わりと結びつけられていて、例えばbulk pinnnig と 表面障壁等である。
2. Field dependence
いくつかのグループが緩和率あるいは規格化緩和率の磁場依存性を測定している。我々は dM/dln(t)の磁場依存性から始める。そのような初期の研究例の中にMota等のものがあって、SrBaLaCuO焼結体の等温的残留磁化緩和が時間に対数依存することを報告している。弱い磁場を加えた後取り去って残留磁化状態を作り出した所緩和率はH^3に比例していた。残留状態の解釈は難しいものがあるが、H^3に比例する振る舞いはfluxが部分的に侵入したことによって生じていると考えられる。この性質は高磁場においては変わると考えられる。完全に磁場が侵入するHよりも十分に大きな磁場を加えると残留磁化は(たぶんその大きさは)磁場に依存しなくなり、緩和率も飽和すると予想される。
H^3依存性の振る舞いに関して、Burlachkov等は表面障壁が存在する場合の解釈を行っている。障壁がfluxの侵入を妨げるが、点欠陥では障壁が抑制されているので侵入する。その結果fluxの分布はBeanモデルとは異なるものとなり、不可逆磁化のleading termはH^3/Jc^2に比例する。BrandtとIndenbomは平板(flat strip)状の試料に垂直に磁場を加えた場合において、表面障壁を持ち出すことなく、H^3依存性を説明した。彼らは垂直な配置では反磁性効果の影響が大きく、逆に平行な(longitudinal)配置では反磁性効果は無視できることを強調している。特に彼らはflat strip状の試料において部分的に(長さaの範囲)臨界状態にある場合の式を示した。
M=πa^2*H[1-H^2/(3*Jc^2)]
どちらの説明もflux creepが存在する場合には、JcをJでおきかえて、規格化されたcreep率はH^3に比例することになる。
通常の等温的履歴測定では、緩和は外場の存在のもとで測定されることになるから、もっと複雑な現象が観測されることになる。典型的なYBCOに関する実験をfig.14にあげる。Hc1以上では緩和率は低磁場極限までpower-lawに従って増加し、高磁場側で減少して、温度に依存するピークを示す。温度が増加すればピークは低磁場側にシフトするが、ここが普通完全なfluxの侵入する磁場を示している。同様の振る舞いがMoschalkov等によってBSCCO単結晶で報告されている。これは磁場に依存するJcをもつ拡張Beanモデルに基づいて、Anderson-Kimモデルの示す(式(2.9))時間に依存した電流を導入する事で説明がなされている。また磁場に依存した緩和率におけるピークはこれまでの超伝導体においても観測されていることに注意すべきである。
磁場の関数としての磁化緩和のデータは障壁(励起)のエネルギーを決定するのに利用される。一般的には励起エネルギーは磁場の増加とともに減少する。また、磁化緩和のオンセットをHc1の値として利用できるということも価値ある点だ。その理由は単純にマイスナー状態での実験であれば可逆的で磁化緩和は存在しないからというものである(fig.14を見よ)。しかし表面障壁が存在すればこの解釈は複雑になる。
磁場の関数としての規格化緩和率の(limited?)データは低磁場において増加関数である。中間的磁場においてはゆっくりした緩和に移り変わる(crossover)という報告がある。これはsingle vortex creepと collective creep の移り変わりと解釈されている。collective creep の理論は4章で簡単に述べる。中間的磁場領域におけるゆっくりとした緩和への移り変わりは履歴ループにおける異常なピーク、fishtail等に密接なつながりを持つ。これはKursin-Elbaumによって指摘されたが、彼らのYBCO単結晶を用いた中間温度領域での実験において磁化曲線の異常ピークと規格化緩和率の磁場依存性との間に強い相関が見られたことに基づいている。彼らは異常ピークはそのピークを示す磁場において緩和が遅いことによって生じると提案している。この解釈は最近の研究例を用いて、さらに考察を進める必要があって(Yeshurun等のYBCO単結晶を用いた実験)、それによると高温領域において異常ピークと緩和との間には相関が見られない。
3. Deviation from time-logarithmic relaxation
Anderson-Kimモデルは基本的に磁化M(t)の時間依存性が近似的に対数依存になることを予言するものである。なるほどこの予想は通常の超伝導体で一般的に確認されている。しかし、この新しい超伝導体においては、対数的減衰からのずれが研究の初期の段階から報告されていた。(fig.2を見よ)このずれを説明する事が4章で述べられるcollective flux-pinningモデルの目的のひとつである。3章のAで強調したように、これらのずれは元々小さなものであるから、実験から意味のある結論を引き出すためには、どのような条件で実験したのかということを明確にしておく必要がある。他にも十分に長時間の測定を行って、いろいろなモデルの検討に利用できるようにしておくことも基本的な点である。
GurevichとKupferが緩和の初期の段階において対数的時間依存性からのずれが期待されることを指摘した。この初期段階での非対数的振る舞いは試料断面での分布において、fluxの再配置が生じることに原因がある。この段階がどれぐらい持続するかは試料サイズ、flux creep 速度、外場の変化速度などによる。この一時的な段階(の存在)を(明確に)示すために、Agが5%含まれた配向性のあるYBCO焼結体を用いて、特殊な磁場変化をさせた実験を行った。彼らは以下の方法で準備をしている。温度一定のもと、十分に大きな磁場を加える。2から10Teslaを加えて試料内部に完全に磁場が侵入し、臨界状態を実現させる。それから外場を一定の速度で減少させて目的の磁場に設定する。彼らの実験によると、この1〜100秒の間の(一時的な)領域において磁化は時間に対してプラトーであった。この時間は外場の変化速度の逆数に比例する。
実験的な理由から、時間依存性の測定は磁場を変化させた後1〜100秒経過した後開始されて、10^3から10^4[sec]ぐらいまで継続される。いくつかのグループにおいては短い時間での緩和測定を試みていて様々なテクニックが利用されているが、これには、pulsed magnetmetry , fast field-switching time , 大きな速度で外場を変化させて測る磁化履歴等がある。いくつかの実験では、指数関数的磁化の減衰が観測されていて、熱励起によるflux-flowモデルの予想と一致する。非対数的減衰を示す実験の中でもっとも劇的なものとしてGao等の実験があるが、これは0.1msecまで測定の範囲を拡大して9のオーダーまで測定している。(fig.15)図によればYBCOのmelt-textured試料において残留磁化の時間依存性を測定したところ、強度の非対数的緩和を示している。しかしもちろん3章A5で指摘したように残留磁化を用いることは解釈を複雑にしてしまうが。
ThompsonとSunとHolzbergによるproton照射されたYBCO単結晶を用いた長時間にわたる系統的な時間依存性に関する研究は対数依存的振る舞いからのずれを示しているが、collective pinningと呼ばれる内挿式でフィットできる。
J∝[1+(μkT/U0)ln(t/teff)]^(-1/μ)
式(4.21)を見よ。ここでμはcreep 率を決めるパラメーターである。典型的な例をfig.2に示す。fig.2の内挿図は各温度でのフィットから求めたμの値を示している。vortex-glassの枠内ではμの温度依存性が1よりも大きくなることは説明ができない。しかし4章C.1で議論するようにcollective-creep理論では大きな指数の値となることも可能である。μの温度依存性の測定結果は定量的にもこの理論の予想と一致する。
内挿式でフィットすることは非対数的依存性を解析する上で標準的な手法である。時々、特に大きなnμの値の場合に、磁化の時間依存性だけでは内挿式と他のモデルのどちらが良いか、区別を付けることが難しくなる。この場合には規格化された磁化の時間依存性をプロットして試せばよい。power-lawに従うならSは定数であるが、内挿式に従うなら1/Sはlog(t)に従って線形に増加する(式(4.22)を見よ)。内挿式をいつも適用できるわけではないことには注意すべきで、表面障壁がある場合などには使用できない(3章B.4を見よ)。
いくつかの状況においては、内挿式はうまく行かず、他の関数が緩和のデータのフィットに使われる。例えば、Liu等はLuBa2Cu3O7単結晶において磁化の緩和がpower-lawに従うことを観測している。同様の例としてHergt等はBSCCO単結晶においてもpower-lawに従うことを示している。power-lawでのフィットが妥当な例としては異常な第2ピーク(fishtail)の温度と磁場の領域での測定がある。対数的依存性からpower-lawへの移り変わりがXu等によって報告されている。彼らはこの遷移を不可逆温度への接近と結びつけているが、この温度以上の領域では実験の時間スケールにおいて実際上不可逆磁化が観測されない。Safer等はBSCCO焼結体における低磁場での磁束クリープに着目して、低温で対数的依存性を示しているが不可逆線の十分に下の温度領域においてpower-lawへ変化することを示した。Xue等は別な内挿式を提案した。
M〜{ln[(t+t2)/t1]}^(-1/μ)
上記で、彼らのパルス的データをフィットして、power-lawよりも良い結果を得ている。(ここで、μ、t1、t2はfree fitting パラメーターである)Brawner等はYBCO単結晶の残留磁化状態での緩和の局所的測定を行った。彼らは4.2〜74Kのすべての温度で場所に関係せず、緩和がpower-law(ただし(1+t/τ)^(-1/σ))依存性を示すことを観測したが、これはVinkur等が計算したJに対して対数依存をする障壁に合致する結果である(4章を見よ)。
4. Magnetic relaxation over surface barriers
BeanとLivingstonによって示されたように、第2種超伝導体の表面においてVortexの侵入と排出時にポテンシャル障壁が生じる。Bean-Livingston障壁は、遮蔽電流との相互作用によるVortexの反発とVortexの鏡像との引力との間の競合関係によって生じる。Bean-Livingston障壁は高温超伝導体においてもっと強調されるべきで、例えば以下の論文で議論がなされている。.....中略.....表面障壁とbulkピンニングは両方ともが試料の不可逆性を決定する。それらの相対的な大小関係は温度、磁場により変化する。
高温超伝導体における表面障壁の実験的証拠にはいくつか例がある。典型的な”足跡”としては履歴ループ測定において磁場を減少させるときにM≒0となることである。他にも電子線照射した後の履歴ループの幅の減少にあらわれる。普通は照射によって欠陥が生じるのでピン止め力が増加すると考えられる。しかし表面障壁が不可逆磁化において支配的な要因であるなら、試料表面の完全性を破壊して(その完全性に表面障壁は依存する)不可逆磁化を減少させると考えられる。この効果の直接の影響としてfluxの侵入する最小限の磁場の値が劇的に減少する事があげられる。このfluxが侵入する最小磁場の温度依存性における異常が(それは表面障壁の結果であるが)低温での実験とTc近傍において観測されている。
もちろん表面障壁も(不可逆磁場の原因の一部として)flux creepの影響を受ける。Burlachkovは、Clemの提案したモデルを用いて、fluxの侵入と排出において異なる緩和率を持つと提案した。排出においては、磁化M(t)は対数的時間依存性を示すと予想され、fluxの侵入時には、M(ln(t))は強度に非線形な減少関数(downward curvature)である。しかし、その初期の緩和率dM/dln(t)は、通常のbulk creepと比較して、排出よりも侵入時が非常に大きくなると予想している。(またBeasley等はbulk creepのような非対称性を予測しているが、これは特に△B/Bが大きい場合だけである)この緩和における非対称性は、表面障壁が存在する場合に、BSCCOにおいても観測されている。
表面障壁が不可逆磁場において支配的な要因であるとき、それによって生じる不可逆性に伴う磁化緩和は理論的な予想と直接比較することが可能である。試みるべきことは、緩和率の温度依存性を複雑にするこの効果を分離することと、bulkピン止めと重なる領域を避けることである。(意味不明)bulkピン止めと表面障壁が等しく重要である場合には重なり合った現象を観測した報告例がある。Chikumoto等はBSCCO単結晶においてfluxクリープが、温度と磁場の場合と同様に、時間の関数として2種の式で表されることを示した。例えば温度と磁場が一定の場合、dln(M)/dln(t)はゆっくりとした減少関数へのクロスオーバーを示す。このクロスオーバーは高温においてはより短い時間へと移動する。これは表面障壁が長時間の領域においては支配的な原因となっていることの証拠である。Weir等はYBCOにおける正反対の現象を報告している。こちらは表面障壁が短い時間間隔において支配的であるとしている。Burlachkovはbulkピンと表面障壁の競合する状態において、緩和の初期はエネルギーが小さい方によって決定されると指摘した。こうしてU_bulk < U_surface ならば、bulk緩和が最初に観測される。しかしbulkピンと関係した永久電流は減少していくので、U_bulkは増加して、クロスオーバー時間の後では、U_surfaceが支配的になる。
我々は表面障壁の緩和に与える影響に関する研究はまだまだ初期段階であると考えている。特に磁場と温度に関する系統的な実験が不足している。また、予想される侵入と排出における非対称性に関してはさらに探求が必要である。これに関しては磁場の排出時において、ほとんどゼロとなるMの値を測るという実験的困難を克服することが必要となる。
5. Memory effect
Rossel等とKunchur等はYBCOとBSCCOの単結晶においてメモリー効果を報告している。この実験では試料は磁場H1、温度Tで一定時間tw経過した後の準平衡状態におかれる。それから外場をH2まで増加させて、磁化緩和を測定する。メモリー効果は磁場を変化させた後ある時間tb経過した時点での磁化緩和の対数依存性における切断、あるいは変曲としてあらわれる。Rosselの報告ではだいたいtb=twが成立する。彼らはこの観測結果をスピングラスにおけるメモリー効果と結びつけていて、超伝導グラスモデルの観点から説明している。Kunchur等はflux creepモデルによる、より単純ではより自然な説明を提案している。彼らのモデルによれば、緩和率における変化はfig.16に示されているように二つの連続的な場によって作られたステップによる複雑なflux分布の(Jの緩和によってもたらされた)時間発展によるものと考えられる。fig.16(a)の点線は外場H1での初期分布を示している。実線はtw経過した後の分布を示す。この時点で外場をH2に増加させると、もとのH1の時の分布にこの時加えられた磁場が重なって、fig.16(b)の実線になる。この線上の"break"に注意すべきだ。熱励起によるflux creepは磁場の傾きを減少させて、時間t'経過後には"break"は消失し、以前の磁場分布を記憶した”メモリー”効果もfig.16(c)に示されるように無くなる。この磁場分布における変化は測定にも影響する。こうしてクロスオーバーが時間t'で観測されると予想され、この時間以降は緩和は普通の対数依存性を示す。Kunchur等はt'をH1,H2,T,twの関数として表し、一般的にはt'≠twであることを示した。
6. V-I curves
flux の運動とV-I,E-Jグラフとの関係はfluxの運動が電場E=(1/c)*B*vを生じることを基礎としているが、ここでvはflux line のローレンツ力方向の平均速度を示している(2章Cを見よ)。ピン止めはされていないがダンプされているflux格子ならば、vはJに比例して、VとIは線形関係となる。ピン止めが重要であるなら、平均速度はflux lineの熱的ジャンプと関係しているのでv=v0*exp(-U(J)/kT)となり、ここでv0はJの関数であるかもしれない。(4章Aを見よ)それで電場EはU(J)に対して指数関数的依存性を示す。こうしてflux creepは強度に非線形的なV-I曲線と強く結びつき、UのJ依存性とEのUに対する指数関数的依存性によって記述される。
例えば、Anderson-Kimモデルでは有効障壁エネルギーは電流密度に線形依存性をすると仮定しているので(U=U0(1-J/J0))、指数関数的V-I曲線を与える。Zeldov等の対数モデルはU=U0*ln(J*c0/J)と仮定しているので、power-law V-I曲線となる。voltex glass と collective ピンニングモデルでは非指数関数的E-J曲線、E∝exp{(-const/J)^μ}なるが、ここでμは磁場と温度と電流に依存する(Blatter、1994を見よ)。
V-I曲線は磁化測定から求めることができる。dM/dtはサンプル表面の電場に比例し、Mは電流に比例するので、dM/dt vs M をグラフにすると、E-J曲線が得られる。この非接触の測定法は通常の輸送電流を用いた測定法では不可能な領域でJ-E曲線を得ることができる。
輸送電流を用いた測定における power-law V-I 関係は、古典的解釈では不均一なJcによると考えられていて、低温超伝導体においてこれを基礎にしてpower-lawを説明するモデルが導かれた。しかし、高温超伝導体においては、power-law的なV-I関係は、上記で説明したように、flux creepから生じるとされている。ときどき両方の効果が観測されて、例えば最近の例として、strained and unstrained wire の例がある。
7. Experimental determination of U(J)
Beasley 等が、励起エネルギーの永久電流J依存性が線形になると、最初に指摘したが、式(2.5)はもっとも単純な近似である。一般的に言って、U(J)は非線形関数であり、J=0で発散するが、詳細は4章Cで議論する。Maley等はU(J)の決定に関してflux creep測定を基礎にした方法を提案した。fluxの熱励起運動に関する緩和率の式から、彼らは式が
U=A*T-kT*ln(|dM/dt|)
と、なることを示したが、ここでAは時間に依存しない関数である。kT*ln(|dM/dt|)とMirr∝Jの両方とも実験的に決定できる。こうしてkT*ln(|dM/dt|) vs Mirr のグラフを異なる温度で描けば(付加的な定数A*T次第であるが)U vs J の関係が得られる。典型的な結果を多結晶体のYBCOに関してfig.17(a)にあげる。温度を増加させると基本的にはMirrの単調な減少を生じる。Mirrが減少すると、ある温度での測定データの列は、だんだんと傾きが急になる。適当なAを定めてTを掛け合わせて、その項を加えれば(引けば?)、すべての温度のデータがひとつの曲線上にのる(fig.12.(b))。これらのデータからMaley等はUがJに対数的依存性を持つと結論していて、輸送電流を用いた測定のZeldov等の結果と一致している。磁化緩和からU(J)のJ依存性を求める試みはSengupta等の論文で論じられている。
U(J)を決定する他の興味深い方法としては最近ではAbulafia等のものがある。これは列になったホール素子を使うもので、局所的Bを同時に異なる何点かの場所で時間の関数として測定するものであり、flux拡散方程式(式(4.2))にもとづくflux creep の解析を直接行うことを可能とする。fig.18にYBCO単結晶を用いた残留磁化状態での50Kにおける測定例を挙げる。挿入図はホール素子の試料上での場所を示している。明らかにdB/ln(t)は中心部で最大となり、端に向かって減少する。probe3はB≒0に位置しているが、近似的に緩和率はゼロである。この場所は異なる符号のvortexが消失してしまう(等高)線を示す。反磁性効果により、試料端でのBは時間とともに増加して、正の緩和率を示す。この結果は磁化緩和が局所的に見れば不均一であることを示すが、この結果から正と負の緩和が合わさった全体の緩和が何を意味しているのか疑問を生じる。加えて、全体の磁化測定において、実際は試料表面での励起エネルギーを測定しているのであるが、Jは試料の体積全体で平均されることを理解することも重要となる。
fluxの拡散方程式にもとづいて局所的測定の結果を解析することは、fig.19に示すように時間の関数として局所的励起エネルギーUの値を与える。予想通り、Uは時間とともに増加して、Jの減少を反映したものとなっている。長時間極限(long-time limit)では、Uが時間の対数に線形となっているが、これは式(4.7)の理論的予想を確認している。線形の部分を外挿してU=0の時の時間t0を求めると、1から10マイクロ秒であることが分かる。Bの空間的分布の測定から、Abulafia等は局所的Jを決定して、温度一定の場合のU(J)を導いた。彼らの結果は式(4.20)の対数的モデルと一致する。
U(J)の関数型に関するさらなる議論は4章Cにある。
C. Suppression of magnetic relaxation
磁化緩和を制御し減少させることは多くの研究の目標であるが、その動機は"giant"クリープの背後にある基本的な物理を理解すること、また他にも(潜在的な)デバイスへの応用を不可能にする要素を除外するためにもflux creepを抑制することが必要である。以下では我々はこの目標を達成するための実験的試みを概括してみる。
1. Modulation of flux profiles and flux annealing
緩和率を減少させる技術の一つに励起エネルギーUがJの減少とともに大きくなることを利用した方法がある。通常急激に外場を変化させた直後は、dB/dxはJ≒Jcに比例する。しかし異なる分布を(例えばJ< fluxアニーリング現象は、Jの時間発展が(時間経過に伴う変化が)その時の状態にのみ依存してそこに至るまでの過程に依存しないことを示している。そうであるなら、アニルされた緩和状態は十分に時間が経過してJが同レベルまで減少した場合の測定と一致すると考えられる。なるほど、これはThompson等によってYBCO単結晶を用いた実験で確認された。この例をfig.20にあげる。実線は外場を加えて温度をTm=30Kに維持した場合の長時間にわたる測定結果を示している。TA=31,32,34,35KからTm=30Kまで戻して測定した結果はopenな記号で示した。それらの時間軸におけるポジションは、最初の磁化が実線と同じ磁化の値をとるところにt_offsetを定めることで調節している。図によればアニールされたデータは、その後同一の曲線上にのっている。こうして先の単純な仮定が確認された。この方法によって示される磁化の時間依存性は式(4.21)の
collective creep に当てはまり、図の中ではsolidの記号で表されている。
2. Effect of introducing defects
新たにピン止め中心を導入すれば緩和率は減少すると考えられる。実験的には欠陥の導入は、化学処理(ドーピング、組成比の変更)、機械的処理、照射などによってなされるが、これらの3種の処理の効果を以下に概括する。一般的にはこれらの手段によって幅広いサイズの欠陥を導入することができる。
異なる処理によって作成された試料において、緩和率とピン止めポテンシャルがどのように関連しているか、多くのグループによって研究されている。これらの実験は、なるほどピン止めにある種の効果を及ぼしていることを示していて、たぶん、異なるものであるがしかし制御できない、ある種の欠陥による効果を示している。こうして例えばKamno等はプラズマアークメルティング法(plasma
arc-melting)の後、急冷して、比較的大きな励起エネルギーと緩和率の減少を報告している。同様に
quench-and-melt成長法は弱結合なしにYBCO多結晶体を作成でき、緩和率を減少させる。Shi及び他の研究者らは常伝導析出物を導入することでピン止めが改良されることを示した。比較的大きな析出物であればピン止めは常伝導層か、あるいは常伝導と超伝導層との境界がになっているようだ。組成比の変化と緩和率の関係を(すべての単位セルが置換されているとして)研究したグループもある。例えば磁場によって配向された多結晶YBCOで、酸素欠損との関係においては、規格化された緩和率は酸素量と(0≦δ≦0.2の範囲で)関係が無いことを示している。その(緩和率の)値は0.02を中心に分布して、温度依存性はプラトーである。
化学的ドーピングと単位セル内の要素の置換も、緩和率に影響する。(Paulius等の論文を見よ)化学的ドーピングは、常伝導層を導入し、そこでは超伝導パラメーターが抑制され、ピン止め中心となることにより粒界内のJcを増加させる。化学的置換は化学的不純物を導入して超伝導ホールキャリヤと相互作用させる場合と同様の効果であるかもしれない。
超伝導体粉末を堅く詰め込んだ物質(powder compact)で高圧shock-wave処理で劇的にピン止めエネルギーが増加することが報告されている。このエネルギーの増加はショックにより導入された欠陥である。
照射は制御可能な欠陥の導入法としては、一般的な方法である。多くの実験例が報告されていて、フォトンを用いるもの、粒子を用いるものがあり、エネルギーレベルもeVからGeVにわたる。U235の核分裂破片による内部照射の影響もYBCOにウランを添加した物質で研究されていて、他にも熱中性子に照射させた場合の例がある。TcとJcに対する影響を評価した研究がほとんどであり、緩和率に関したものは少ない。多結晶体での照射の効果はほとんど見られないほど小さい。単結晶に関しては、Civale等がYBCO単結晶に陽子を照射した場合に規格化緩和率には変化が見られないと報告しているが、Venturini等は重イオン照射において緩和率の減少を報告している。
重イオン照射(例えば580MeVのSnイオン、1〜2GeVのXeイオン、5〜6GeVのPbイオン等)は、円柱状のアモルファス航跡(円柱状欠陥
columnar defects )を作り出す。これらの欠陥は、これと平行な磁束量子線にとって、最大限のピン止め力を発揮するが、それはVortexの直線的な形状にマッチするからであって、その直径は10nmでVortex-coreと同じ程度である。なるほど、それらは磁化の不可逆性を強めて、磁化緩和を抑制する。
fig.21はProzorov等の研究からのものであるが、YBCO単結晶を用いた重イオン照射の効果を示している。臨界状態とfluxの完全な侵入を確かなものにするために、Pb(10^11ions/cm2)を照射する前と後の試料の両方に関して、完全な履歴ループを何点かの温度で測定している。履歴の幅△Mは照射後増加したが、例えば60K、1Teslaにおいて5倍になった。図によれば、規格化された緩和率が照射によって減少していることが分かる。これらのデータの比較には注意が必要で、それは緩和はUによって決定されるが、そのUはJの関数であるということである。それで照射によってJが増加すれば、自動的にUと緩和率に影響を与えることになる。もっと意味のあるものにするには、等温的で同じJの値の場合の比較をしなければならない。この実験では照射後の60KでのJは照射前の20KでのJに相当する。後者の緩和のデータもfig.21に示していて、明らかに照射がJを通してだけではなくてUに直接影響していることが分かる。
BSCCO単結晶とワイヤーでの実験において、Gerhauser等は緩和から求めたピン止めエネルギーが一組のCuO2ダブルレイヤーにおいての欠陥の持つエネルギーとだいたい等しいことを発見した。これに対してClem等の説明を用いれば、BSCCOの系列の物質においてはBi-O層を挟んだ超伝導層間の結合が極めて弱いことからVortexがパンケーキの積み重ねであるかのように分断されていて、それぞれのパンケーキは他のものとは関係なく自由にcreepすることができるというものである。他のnucleation-creepモデルとしてNelson等の時間とともに(永久電流が減少することによって)障壁エネルギーが増加するモデルがあって、これはより詳細に、磁化の減衰を説明する事ができる。
興味深い問題として、マッチング磁場を挟んでそれよりも強い磁場と弱い磁場における測定結果の比較があるが、マッチング磁場とは円柱状欠陥とVortex密度が数の上で一致する磁場のことである。KhalfinとShapiroは、マッチング磁場よりも強い磁場で、欠陥の間の領域(interdefects
regions)がピン止め中心となっていることを示したが、これはこの中間地点に、円柱状欠陥にピン止めされたVortexによって、障壁エネルギーがもたらされた故である。
4章 Theoretical approaches to magnetic relaxation in High-Temprature
superconductors
歴史的には、高温超伝導体は最初焼結体試料である。それで超伝導グレインが弱結合したかたまりと考えられていて、Ebner等によって述べられた様に"glassy
superconductor"を形成していると見なされた。磁化緩和現象も最初はglassy状態から生じるものと考えられて、スピングラスのようなfrustrated
system 観測されるのと同じ現象が予想された。(スピングラスに関してはFischer等 1991、超伝導グラスモデルに関してはRae等1991、Mee等1991)グラスモデルを単結晶に適用した例もあるが、単結晶における顆粒性の原因については今でも未解決の問題である。
Yeshurun等は高温超伝導体で観測されるジャイアントfluxクリープを熱励起によると指摘したが、この熱励起によるクリープは最初にAndersonとKimによって後にBeasley等によって述べられたものである。基本的なAnderson-Kimモデルを用いて、多くの高温超伝導体の磁化緩和データが説明可能であったが、特に低温低磁場での領域にうまく当てはまる。しかし比較的高温で高磁場においては、基本的なfluxクリープモデルとの不一致が観測された。加えて、超低温では、熱励起が凍結されると考えられるのに、クリープが観測されている。この問題の多い領域での結果に対して、様々なモデルが提案されている。例えば温度の高い領域に関しては、flux
flowモデルが提案されていて、低温でのデータを解釈するために量子クリープモデルが使われる。熱励起と量子トンネル効果のクロスオーバーする温度を計算するためのモデルが、Ma等によって提案されている。最近の例から、興味深いものをあげれば、超低温のデータを熱励起として記述する試みがある。例えばMatsushita等の研究があげられる。
Anderson-Kimモデルが適用可能な範囲で実験データを解釈すると、いくつかの特徴のある結果が得られる。そのままこのモデルを用いれば、障壁エネルギーが温度とともに線形に増加することになる。ここから、モデルを拡張して励起エネルギーに分布が導入されたり、UのJ依存性を非線形とするなどのモデルが考えられた。Feigel'manによって提案された、新たなものとしてcollective-creepモデルがある。これはランダムな弱いピン止めを仮定するもので、Vortexクリープをランダムなポテンシャルの中を通過する弾性体の運動と考えるものである。このモデルには、非線形的U(J)と障壁エネルギーの分布が含まれている。
Anderson-Kimモデルとその拡張モデルはVortexの可動性が温度が低くなるとともに小さくなっていくことを予想する。Fisherによって、これとは全く異なるモデルが提案されていて、それはVortexがVortex液体状態(Vortexが極めて動きやすい)からVortexグラス状態(Vortexが動けない)へ熱力学的相転移をするというものである。Vortexグラス状態はAbrikosov格子が結晶の不完全性によって長距離秩序が失われた場合のことをいう。この状態であれば、fluxの可動性が完全になくなるのは無限小のJの値の場合だけであることに注意すべきだ。この極限においてUは発散し、flux格子は長距離グラス秩序を示す。しかし、有限のJにおいてはcreepは存在する。Vortexグラス状態でのfluxの静的及び動的性質はFeigel'man等によって、collectiveピン止めモデルを用いて研究された。
上記のカテゴリーに含まれない、他のモデルも提案されている。例えば最近のものとして、self-organized
criticalityモデルがある。これらの試みはここで取り扱うには時期尚早である。以下、我々はAnderson-Kimモデルとその拡張型に、及びcollectiveクリープモデルに集中する事にする。ここでの目的は実験家のために理論の概略を示すことである。より詳しいことは、Blatter等の論文を参考にすべきだ。
A. The electrodynamic equation of flux creep
このセクションではfluxクリープの古典的な理論を、Blatter等の取り扱いにならって、レビューする。スラブ状の試料を考えて、fluxはz軸に沿っていて、x軸に沿って移動するものとする(fig.22を見よ)。より複雑な配置として、平らなストライプ状の試料が磁場に垂直に置かれた場合は、Gurevich等の論文を参照せよ。以下の議論においては、Bは磁化よりも大きく、B≒Hとする。マクロ的に平均化されたJは、y軸方向を向いていて、Vortex密度の傾き(座標微分)と関係していて、以下の準静的マックスウェル方程式を通じて、ピン止めによって決定される。
∂Bz/∂x=-(4π/c)*Jy (4.1)
この式でdisplacement-currentは省略されている。以後、単純にするために添え字y,zを省略するが、以後もfluxの向きは一方向のみであると考える。この磁場の傾きは熱励起によるVortexの移動で時間とともに減少するが、こうしてJとMも緩和する。Jの減衰を決める式はMaxwell方程式
∂E/∂x=-(1/c)*∂B/∂t
と、fluxの運動と電場の関係式である
E=(1/c)B*v
から導かれる。ここで、vはlorentz力方向(x軸方向)のvortexの速度である。これらの考察はflux密度の連続方程式へとつながる。
∂B/∂t=-∂(v*B)/∂x (4.2)
式(4.1)を用いれば、Jに関する式になって
∂J/∂t=(c/4π)*∂^2(v*B)/∂x^2 (4.3)
{Assuming thermal activation over the pinning barrier U(J) 熱励起が障壁U(J)を越えて生じると仮定すれば?}、式(4.2),(4.3)の中のvは以下の式で与えられる。
v=v0*exp[-U(J)/kT] (4.4)
ここでv0はv0=x0*ωm*J/Jc、x0はホップする距離、ωmはミクロなattempt frequency(障壁を越えようと試みる回数)であり、J/Jcは(kT>>Uで、v∝Jとなる)粘性的流れの式へと緩やかに変化させるために導入されたものである。
Blatter等は磁場が完全に浸透してまたU(J)の磁場依存性が無視できると仮定した場合に、式(4.3)を解いた。その結果によればJの空間分布は(電流の符号が変わる試料の中央部分をのぞいて)大部分で無視できる。Jが一定であることは、式(4.1)によればBが試料の表面から中心にかけて線形に変化することを示している。いろいろな変数のxに対する依存性をfig.22に示した。
式(4.2)を試料の中心から端にかけて積分することで、スラブ形状の試料に関して以下の式が得られる。
∂J/∂t≒-(c*v0*H)/(2πd^2)*exp[-U(J)/kT] (4.5)
ここで、Uはスラブの表面での励起エネルギーである。この式を考えるにあたって、二つの境界条件を用いる。
(a)スラブの中心(x=0)で同じ量のfluxが反対方向に移動するので、正味のflux流密度はゼロである。(vB=0)
(b)スラブの表面(x=d)では、BはHに等しく、それは時間依存性がない。
励起エネルギーUに関して、式(4.5)においてdJ/dt=(dU/dt)(dU/dJ)^(-1)と置き換えることにより、同様の式が得られる。
dU/dt≒-(c*v0*H)/(2πd^2)*(dU/dJ)*exp[-U(J)/kT] (4.6)
この方程式は対数的な正確さで解くことができて、これにより下記の式が得られる。
U(J)=kT*ln(t/t0) (4.7)
ここでt0=2πkT*d^2/(c*v0*H*|dU/dJ|)。Feigel'man等の指摘によれば、t0は試料サイズに依存するマクロな量で、実際のミクロなattempt
time(障壁を超えようと試みる時間)と混同させてはならないとしている。式(4.7)は一般的なもので、U(J)の関数型には依存しない。遮蔽電流J(screening
current)の時間的な変化は、UのJ依存性を表す関数型が分かっているなら、式(4.7)によって直接決定される(やや自信なし)。以下では、我々はU(J)が線形である場合と非線形である場合の両方を議論する。非線形の場合はこれまでの低温超伝導体においてはあまり関心を持たれることがなかった。これは測定において、永久電流Jが常に臨界電流とほとんど同じ値であったからだ。しかし高温超伝導体においては、巨大fluxクリープゆえに、非線形性が重要となる。
B. Liner U(J)-the Anderson and Kim model
AndersonとKimは障壁エネルギーが電流Jに単純に線形依存するモデルを考案した。
U=U0-(1/c)*J*B*x0*V (4.8)
ここでVは、fluxバンドルの体積であり、x0はホップする距離である。(ここでは前方に、Lorentz方向にホップする場合しか考えない。後方にホップする場合は、U< U=U0*(1-J/Jc0) (4.9)
ここでJc0=c*U0/(B*x0*V)は、障壁が消失する臨界電流値である。2章Cにおいて、我々は臨界電流JcをLorentz力がピン止め力と等しくなるところと定義し直す。実際この状態で障壁は消失し、よってJc=Jc0
上記で述べたように式(4.9)の線形近似はJc0近傍において妥当なものであり、これまでの超伝導体では正確な式であるが、というのもそれらの物質においてはU0>>kTであって永久電流が常にJc0に近い値であるからだ。しかし高温超伝導体においては巨大fluxクリープが存在するのでJはJc0よりもかなり小さく、それ故にUのJに関する非線形依存性が、後で述べるように非常に重要になる。
式(4.7),(4.9)から、有名な電流Jの時間に対する対数依存性を示す式が得られる。
J=Jc0*[1-kT/U0*ln(t/t0)] (4.10)
t=0においても成立する式にするには、式(4.10)を以下のように書き換えることが普通であって、
J=Jc0*[1-kT/U0*ln(1+t/t0)] (4.11)
以下では、この式から導かれる重要な計算例をまとめてみる。最初の明らかな結果として、式(4.10)のカッコの中の電流にたいする補正項がある。これはfluxクリープ減少項(flux
creep reduction facter)と呼ばれる。低温ではU0は温度に依存しないのでfluxクリープによってもたらされるJの減少は温度に関して線形である。
式(4.10)は(kT/U0)*ln(t/t0)<<1の極限で正しく、この極限ではfluxクリープ減少項は小さい。U0*J/(kT*Jc0)がunityに減少する時間tcrが定義できて、式(4.10)を用いれば、
tcr=t0*exp[U0/kT-1] (4.12)
これは対数的緩和と指数的緩和のクロスオーバーする時間である。(3章B.3を見よ)同様にクロスオーバー温度Tcrも定義できて、ある観測時間をtobsとすれば、
kTcr/U0(Tcr)=1/[1+ln(tobs/t0)] (4.13)
ここでU0の温度依存性を明示している。しかしほとんどの高温超伝導体ではU0は小さいので、TcrはTc/2より小さい範囲にあり、そこではU0は基本的には温度に依存しない。
対数的な振る舞いを示す範囲において、JcをJで置き換えた臨界状態モデルは良い近似を示す。この時、試料に十分磁場が浸透した状態なら、磁化MはJに比例する。例えば厚さLのスラブ状の試料が十分に強い磁場中に平行に置かれていて、式(2.6)から、flux密度の勾配が±Jで一定なら、
|M|=J*L/(4c) (4.14)
それゆえに、磁化Mは、式(4.10)で与えられる電流Jのように、対数的なfluxクリープの修正項にしたがって、緩和する。
式(4.14)から、規格化された緩和率の式が導かれる。
S=(1/M)*dM/d ln(t)=d ln(M)/d ln(t)=d ln(J)/d ln(t) (4.15)
この値は、障壁エネルギーを評価するときには有効であるが、つまり式(4.10)にあらわれるJc0の値を知る必要がない所が利点で、Jc0は、最初の測定よりよりも以前に大きな緩和生じる場合、かなり不確かな値となるからだ。小さな問題として、規格化はしばしば時間に依存する磁化M(t)よりも最初の磁化の値Miでなされることがある。しかし測定中のMの変化は多くの場合小さいのでこれによって生じる誤差も小さい。式(4.10)から、
S=-kT/[U0-kT*ln(t/t0)] (4.16)
式(4.10)が成立する範囲で、U0は分母においてkT*ln(t/t0)よりも十分大きく、Sは常に負である。
Hagen等が指摘したように低温超伝導体においてはU0はkT*ln(t/t0)と比較して十分に大きく、Sは-kT/U0にしたがって減少し、これが式(4.10)の対数の項の前の係数となる。これによって、多くの研究者が-kT/Sの値を報告し、それを障壁エネルギーと見なしている。式(4.16)によれば、有効な(あるいは実際の)障壁エネルギーは
Ueff=U0-kT*ln(t/t0)
で、表される。この曖昧さゆえに、実験の論文を読む場合には障壁エネルギーがU0であるのかUeffであるのか注意しなければならない。
fluxクリープとI-V曲線の間には密接な関係が認められている。E∝v*Bであり、flux速度vがexp(-U/kT)に比例することから、以下の式が得られる。
E∝B*exp[-U0/kT*(1-J/Jc0)] (4.17)
これは、UがJに関する線形依存性が(それは対数的磁化緩和の原因であるが)指数関数的V-I曲線と関連していることを示している。最後に、式(4.5)によれば、∂J/∂t∝Eであることを記しておく。この式はエネルギー保存の式に相当し、というのはJ*Eはエネルギー散逸を表し、J^2は蓄えられたエネルギーを示し、それゆえ∂J^2/∂t∝J*Eとなる。
C. Nonliner U(J)
Basely等は1969年にすでに、現実の障壁エネルギーは電流Jに非線形依存性を示すべきであると理解していた。U(J)の非線形性の重要性は高温超伝導体との関連で明らかになった。非線形U(J)の必要性は、式(4.10)をそのまま適用して障壁エネルギーを求めようとする場合に生じた。そのまま適用すると温度上昇につれて減少するのではなく、むしろ増加してしまうからである。
我々は以下において、特に注意をひいているいくつかの種類の障壁エネルギーを議論してみる。最初にBeasleyによって議論され、ごく最近ではGriessen等によって取り上げられたものとして、Jc0近傍で、
Uj∝[1-(J/Jc0)]^(3/2) (4.18)
もっと最近の関心事として、J< U=U0[(Jc0/J)^μ-1] (4.19)
それと、対数的障壁として
U=U0*ln(Jc0/J) (4.20)
両方ともJ->0で発散するという特徴を持っている。この発散はcollective ピン止め力で理解することが可能であるが、これに関しては4章C1で議論する。
式(4.18)で、記されている(Jc0-J)^(3/2)に比例する障壁エネルギーの振る舞いに関して、かなり一般的な議論をすることが可能で、なめらかに変化するどのような障壁エネルギーの場合でも、最大の傾きは屈曲点で生じて、そこがJc0となる。この点の近傍で式を展開すれば最低次の近似で、U(x)=Jc0*B*x-c*x^3となる(ここでcはある定数)。このポテンシャルを(電流密度の項、J*B*xで)微分して、直ちに正味の障壁エネルギーが(Jc0-J)^(3/2)に比例する式を得る。この式は、JがJc0に近い場合に成立する事に注意しなければならない。高温超伝導体の実験の多くがJc0から遠い値のJを用いるので、この3/2乗の性質が実験結果にあらわれないことは式(4.19)と(4.20)の真偽にとって深刻な問題ではない。ただし、ゆっくりとした緩和が生じる低温の場合はのぞかれる(問題となる)(意味が不明)。
1. Collective-creep theory
式(4.19)の逆power-law関係は最近のcollectiveクリープ理論から持ち上がった。ここでは主にFeigel'man等の理論的な研究を取り上げる。この理論は弱いランダムに配列されたピン止めを仮定するもので、flux線系を弾性的なものとして取り扱う。元々のfluxクリープモデルに比較して(そこでは熱励起されるfluxバンドルの体積は一定としていたが)、collectiveクリープ理論では体積Vは電流密度Jに依存して、J->0の極限で無限大となる。したがってJ->0で、励起エネルギーは発散してflux系は凍結される。有限のJの場合の理論的研究はBlatterによってなされている。この理論の主な結果は、"interpolation
formula"(内挿公式)と呼ばれるもので、下記
J(T,t)=Jc0/[1+(μkT/U0)*ln(t/t0)]^(1/μ) (4.21)
ここで、t0は式(4.7)に関係して定義される、ある対数的な時間のスケールである。この式は式(4.19)から導かれる障壁エネルギーと式(4.7)を等しいとして、得られる。分母のμは、通常のAndersonの公式(短時間測定で、Jc-J< 注意すべき点として、Malozemoff等がVortexグラスモデルから同じ公式を導いていることがある。このモデルおいて、flux系は”Vortex液体”(そこではVortexが非常に動きやすい)から”Vortexグラス”(ピン止めとfluxの相互作用によって作られる、準安定状態にVortexが固定される)へと、熱力学的相転移を起こす。この相において、Vortexの運動は電流が存在する場合のみ可能である。このことは、クリープ障壁が低温でJ=0において、発散することによって記述する事ができる。
Fisherによれば、単純なVortexグラスモデルにおいて、μは1より小さい普遍的な指数となるが、Feigel'man等は磁場と温度に依存したμを提案した。例えば、3次元的な場合に、低温低磁場においてクリープはそれぞれのfluxの運動によるが、その場合にはμ=1/7である。高温高磁場においては、小さなバンドルサイズのcollectiveクリープによってμ=3/2である。さらに高温高磁場においてはバンドルサイズがLondon侵入長よりも長くなり、μ=7/9である。2次元的な系であるなら、μ=9/8である。これらの結果はホッピング距離がAbrikosov格子定数よりも短い場合に正確である。Nattermannは反対に長い場合を考察して、μ=1/2という結果を得ている。
M∝Jであるから、式(4.21)から直ちに、規格化緩和率として以下の式が得られる。
S=kT/[U0+μkT*ln(t/t0)] (4.22)
これは明らかにAnderson-Kimの予想式(4.16)と異なる。式(4.22)は規格化緩和率が時間とともに減少することを示している。他にも興味深い点として、温度の上昇とともに2番目の項が支配的となりSが下記の上限に近づくことがわかる。
S=1/[μln(t/t0)] (4.23)
μが温度やtに依存しないか、あるいはt0が温度にそれほど依存性がないなら、この式からSが(温度に関して)プラトーを示すことが導かれる。この様なプラトーは、Malozemoff等によってまとめられている様に、いろいろな種類のYBCO試料で観測されている。これらの実験結果はSが数パーセントの範囲に(fig.12の場合で0.022から0.026)収まっている。式(4.23)からこの範囲のSの値を得るには、μを10^0の桁、tを1000sec(これは多くの実験が当てはまる)、t0を10^(-10)とすれば得られる。t0の妥当な値は10^(-6)secで、この時はSが約0.05となる。
我々は、S(T)のプラトーを説明可能であるところが、collectiveクリープ理論の主要な成果だと考えている。しかし多くの問題が未解決で残っている。例えば、3章B1ですでに述べたように、最近の実験結果はプラトーの値が磁場依存性を持つことを示していて、YBCOにおいて磁場の値を0.2から1.7Teslaに増加させるとき、プラトーの値が0.05から0.015に減少する。式(4.23)から考えるとき、そのような小さなSの値となるにはμ>2であるか、さもないとt/t0があり得ないほど大きくならなければならない。μ>2という値はVortexグラス理論もFeigel'manの理論でもあり得ない。
collectiveクリープ理論を直接裏付ける実験として、Thompson等によってなされた長時間にわたるYBCO単結晶の測定がある。彼らは対数的時間依存性からのずれをfig.2に見られるようにcollectiveクリープ理論式(4.21)でフィットした。この研究で特に興味深い点として、μの温度依存性を推論する初めての試みであることがあげられる。fig.2に挿入した図によれば、式(4.21)へのフィッティングから導かれたμは30K近傍にはっきりとしたピークを持つ。定性的にはこのピークはcollectiveピン止め理論から予想される傾向をまねしているようだが、その値は予想される値よりもいくらか大きい。また、理論から予想されるμの温度依存性はSの温度依存性が強いことも意味する。しかしもちろんこれは実験から示されるプラトーと矛盾する。
他に式(4.21)から予想される点としては実験結果に当てはめると大きなattempt-timeとなることである。これはmSecからμSecの範囲の”マクロ”な量で、実際の周波数の逆数から予想されるナノ、ピコ秒よりはずっと大きい。最近の論文の中でFeigel'man等はattempt-timeのマクロな性質に関して以下のような説明を行った。磁化は試料の体積に比例するが、その変化率は表面積に比例する。(トラップされたflux全体のどのような変化も表面を通じて出入りするVortexを含んでいる、意味が不明)従って、t0は先に4章Aに記したように試料サイズに依存する。
最後に、Sの値のプラトーから導かれる興味深い結論を記す。3章B6で記したように、磁化緩和は物質中のエネルギー散逸と密接に関係しているので、I-V曲線や、J-E曲線にそれ自身示されることになる。I-V曲線は経験的にpower-law(E=α*J^n、ただしn〜10-60)で表される。Sun等は指数nが直接的に実験で得られるU0/kTの大きさに結びついているモデルを提案した。試料が臨界状態にあると仮定して、彼らはその関係を
n=1+1/S であると結論した。こうして温度依存性のないSは温度依存性のないnを意味する。Sun等はYBCO薄膜を用いた、磁化緩和と輸送電流の実験から得られたnの値を比較して、温度依存性に同様の傾向があることを示した。特に、中間的な温度領域で両方のデータとも温度依存性が弱い。
2. Logarithmic barrier
式(4.21)の様な障壁エネルギーのJに対する対数的依存性は最初にZeldov等によって磁気抵抗効果の説明のために導入された。最近では、fluxクリープの実験例(配向したYBCO焼結体や、LSCOとYBCO単結晶を用いた実験)によっても支持されている。解析するにあたって、(熱励起によるホッピングと電流の時間的な減衰効果を説明するために)彼らはまず標準的なArrheniusの関係から始めている。式(4.5)をもとにして、
dJ/dt∝exp(-U/kT) (4.24)
この式から、
U=-kT*[ln(dM/dt)+c] (4.25)
ここで、cは温度と磁場に依存した定数である。こうして、この値をMに対してプロットすれば(M∝Jより)UのJ依存性が示される。彼らは、式(4.20)の対数的依存性を支持する結果を得た。(fig.17を見よ)
Maley等によってc(T,H)の試行錯誤による決定方法が示された(意味が不明)。妥当なcの値としてはU(J)に関する滑らかな関数であることが期待される。Maley等によって示された元々の方法では、低温においてcが定数であると仮定している。これは以下の事実によって正当化される。つまり、cは拡散方程式のゆっくりと変化するパラメーターに対数的に依存する関数であるからである。(本当か?)しかし注意すべきことは一般的に言ってcの温度と磁場依存性は複雑である。その上、試料依存性がある。これらの依存性のスケーリング方法は最近McHenry等によって研究されている。
直接的なものではないが、対数的な障壁の証拠としてあげられることに、多くの報告例がある、臨界電流の準指数関数的温度依存性がある。McHenry等によって報告されたように、式(4.20)と(4.7)から、以下の式が導かれる。
J=Jc0*exp[-kT/U0*ln(t/t0)] (4.26)
これは、測定が同じ時刻でなされれば、指数関数的温度依存性を示すことになる。
式(4.20)の対数的依存性はプラトーを説明することはできない。式(4.26)によれば、
S≡ d ln(M)/d ln(t) = -kT/U0 (4.27)
これは、温度に関して増加関数となる。
3. Barrier distribution
障壁エネルギーに分布を含むfluxクリープモデルが数多く提案されている。これらのモデルは、また、プラトーをも説明しようとするものである。標準的なAnderson-Kimモデルによれば、プラトーは障壁エネルギーが温度に比例して増加することを示す。適切な分布を障壁エネルギーに導入すれば障壁エネルギーの平均値が温度とともに増加することを説明可能となるが、これは低温において小さなエネルギー値の障壁はなくなってしまうからである。事実これらのモデルはどんな温度依存性でも説明可能である。Hagen等が与えられた温度依存性から逆に必要とされる分布を求める方法を考案している。実際は、これらの方法は、データをフィットするために、有限でない個数のパラメータを持っている。
なるほど、この複雑な物質に関しては障壁エネルギーの分布はもっともらしいことではあり、エレガントではない感じがするものの、反論することは難しい。Malozemoff等は薄膜、単結晶、melt-textured等のいろいろな試料においてプラトーが普遍的に存在することを指摘して、障壁エネルギー分布のもっともらしさに反論を試みた。しかし、この後の実験では普遍的であるかはっきりとせず、正しい解釈は定まらないままである。
5. CONCLUDING REMARKS
多くの研究によって、これまでの超伝導体とは異なる高温超伝導体の特徴が明らかにされてきた。これらの中には大きな磁化緩和現象、非対数的時間依存性、磁場と温度に対する複雑な依存性が含まれる。幅広い温度領域磁場領域にわたって、高温超伝導体における緩和現象が測定されて、その詳細が(これまでの理論との差異が)研究されているが、これはまったくもって、これらの物質における効果が大きいことによって、分かってきたことである。この様な興味深い特徴が今まさに明らかにならんとしている。
通常のモデルでもって、高温超伝導体の熱励起によるfluxクリープ現象の多くは説明可能である。しかし、巨大fluxクリープによって、Jが緩和中に変化してUのJに対する非線形的依存性を考慮しなければならない。U(J)の形を数式で示すことは、理論的にも実験的にもまだ試みの段階である。提案されたいくつかのモデルの中でも、collectiveクリープ理論が重要なステップで、複雑なfluxクリープ現象に対する理解を深めるものであろう。それはいくつかの主要な観測結果を説明可能であって、例えば緩和の対数的な振る舞いからのずれや中間温度領域での規格化緩和率の温度依存性にプラトーが生じること等を説明できる。何より、膨大な実験事実を統合するモデルではないかと考えている。しかしすべてではない。例えば、超低温の領域では量子トンネル効果を用いたモデルが必要となる。collectiveクリープ理論の詳細な部分、例えば温度と磁場に依存して指数μの値が変化することなども確認されていない。しかし、多様なデータを説明可能な他の理論も、また存在しない。
U(J)を直接緩和の実験から導き出すことは不可能であるけれども、理論的モデルのそれぞれが、実験と比較可能な緩和の式を与える。U(J)を確定しようとするそのような試みはモデルに依存していて、いくつかのフィッティングパラメーターを含む。Maley等が開発した方法を用いれば、fluxの拡散方程式を積分した式をもとにして、”グローバル”データ(意味不明)の解析の上での困難さをバイパスすることが可能である。しかしその”グローバル”さ故に、試料表面での励起エネルギーを実際に測定しなければならないが、その一方で電流Jは試料の体積全体の平均である(意味不明)。Abulafia等が開発した方法は、モデルから独立していて、局所的磁化測定によって、直接UとJを決定可能である。彼らは、ホール素子列を用いて試料の磁場分布の時間変化を測定し、flux拡散方程式をもとにしたfluxクリープの解析を行っている。この方法は今まで利用可能であった間接的な方法に比較して重要な改良がなされている。理論的なモデルとして考えられてきた、collectiveピン止め、collectiveクリープ、表面障壁、フィッシュテイル効果等を明確に確認できる可能性がある。
高温超伝導体における研究の展開によって、理論的にも実験的にも、これまでの低温超伝導体における研究を促して、緩和や他の不可逆現象の再検討を新しい視点のもとに行うことになった。
我々が、3章B6で指摘したように、緩和現象と輸送現象には密接な関連がある。モデルに、さらに検討を加えるには、輸送現象も考慮する必要があるが、このレビューでは取り上げなかった。ここでは簡単に、輸送電流の測定結果からはflux構造に関して熱力学的相転移を示す結果が得られていると記すにとどめるが、しかしこれには、他の熱励起をもとにした解釈も考案されている。
最後に、このレビューで取り上げた多くの現象は高温超伝導体の応用に関して潜在的な能力を暗示していることを記しておく。一般的に言えば、磁化緩和現象は永久電流を不安定なものとして、またI-V曲線の鋭さに影響する。実用化にあたっての大きな問題点は、如何にして磁化緩和を制御するかということであって、特に欠陥によるピン止めをどのようにして最適化するかにある。たぶんもっとも有力な方法は高エネルギーイオンの照射によるもので期待通りの円柱状欠陥を作り出すことができる。ピン止めを導入したり緩和を測定したりする純粋に経験的なアプローチとは別に、ピンニングの性質を理解しようとする努力もなされていて、緩和のデータそれ自身から情報を導き出すことを試みている。しかしこの試みが上手くいくためには、データを解釈したり欠陥に関して推論したりする為の現象論的でミクロな理論が必要である。ここの所がこの分野ではバラバラで、なぜなら現象論的な枠組みでさえ解釈の一致が見られず、ミクロな理論のうちでどれが良いのか決定することもできない(訳に自信なし)。同時に、新奇の理論的概念が多く存在することで、以前の低温超伝導体の時には決してあり得なかったほど、この分野に、内容の豊富さと興奮をもたらしている。この現状を概括することが(つまり、このレビューが)この分野でのさらなる進歩をもたらす基礎となることを希望している。