2019,11,5 更新
ひらめき☆ときめきサイエンス

実験を通じて学ぶ液晶の科学

↑昨年の活動の写真(活動内容は本年度とは別)


実施日:令和元年(2019年)11月10日(日曜日)

申し込み締切:2019/11/1(金),(受け付け終了)

実施責任者: 大分大学理工学部 長屋智之

協力者: 小野澤晃,高橋徹


「液晶」はよく聞く言葉だと思いますが,「液晶ってなに?液晶テレビはなぜ映るの?」という問に答えられる人は少ないと思います。この講座では,簡単な液晶ディスプレイ作りと実験を通じてそんな疑問に答えます。また,液晶に電気を掛けたときに発生する対流の観察を行い,私が科研費研究で発見した液晶電気対流の粘性が負になる現象を見てもらいます。未来の科学者の皆さん,液晶の不思議な世界を体験してみませんか。きっと液晶の科学が好きになります。


オリジナルデザインのディスプレイを作りたい方は,描き方マニュアル(click)を見て,
絵柄ファイルをe-mailで長屋智之宛(nagaya"@"oita-u.ac.jp ""を除く)に送って下さい。
  ディスプレイの絵柄募集(絵柄締切:9/30月)  サンプル絵柄1 サンプル絵柄2 ひな形
オリジナルのデザインを頂かなかった参加者には,当方でデザインを準備します。

 

この活動で制作する簡単な液晶ディスプレイ

魚と猫

魚と猫

猫に小判

猫に小判

ピングー

ピングー

回路

表示回路


液晶電気対流

ある種のネマチック液晶に電圧をかけると,対流が発生します。これは,冬の寒い日の味噌汁に現れる,”レイリーベナー ル対流”とよく似た現象です。棒状の液晶分子の方向を揃えると,綺麗な縞状パターンが観測できます。この液晶電気対流は電圧が高くなるにつれて次第に 揺らぎを伴う対流に変化し,最後には乱流状態に至ります。歴史上初めて実用化された液晶ディスプレイは,この乱流状態が光を激しく散乱することを応用 しました。

注意:ブラウザーの設定によっては動画が見えないことがあります。Macは mp4動画、Windowsはwmv動画をクリックしてください。


10.4V 静的な縞模様(動画は10.9V)

Williams Domain


液晶対流の模式図



13.8V 縞模様のゆらぎ

Fluctuating Williams Domain


(b)の状態で暫くすると波模様になる

Wavy Pattern


23V グリッドパターン

Grid Pattern


31V 動的散乱モード(乱流状態)

Dynamic Scattering Mode


科研費研究の紹介:液晶電気対流によって発生する負の粘性

粘性とは流れに対する抵抗なので,普通の物質の粘性率は正の値になります。しかし,高電圧下で激しい液晶電気対流が起きているときには,”見かけの”粘性率が負になることが科学研究費の補助を頂いている研究でわかりました。
以下の図1に示す様に,面積が$A$,間隔が$d$の2枚の板の間に液体を入れます。下の板は固定されていて,上の板を大きさ$F$の力で押して早さが$v$になったとすると,液体は上に行くほど($z$が大きいほど)流れが速くなります。この流れの勾配はせん断速度$\dot{\gamma}$と呼ばれ,$\dot{\gamma}=\frac{v}{d}$の関係があります。また,単位面積あたりの力はせん断応力$\sigma$と呼ばれ,$\sigma=\frac{F}{A}$の関係があります。ニュートン流体と呼ばれる最も単純な液体の場合は,図2に示す様にせん断応力とせん断速度に比例関係$\sigma=\eta\dot{\gamma}$があります。この比例係数$\eta$が粘性率です。

図3に示す特殊な回転粘度計を用いて,高電圧の元で乱流状態の液晶電気対流のせん断応力をせん断速度を変化させながら測定したところ,図4に示す履歴(ヒステリシス)を持ったせん断速度とせん断応力の関係が得られました。これは,図5に示す鉄などの強磁性体(ferromagnetics)の磁束の強さと磁場の関係と類似していることから,図4の関係を示す液晶電気対流をferroviscous fluidと命名しました。強磁性体は,外部磁場が無い場合でも自分自身が磁石となって磁化を持ちます(自発磁化$B_\mathrm{c}$)。図4のせん断速度$\sigma=0$の下で0でない$\dot{\gamma}$が存在することがこの事に相当します。液晶電気対流の場合も,図4の矢印で示す自発せん断速度($\sigma=0$において0ではない$\dot{\gamma}$)が存在し,流れが自発的に(勝手に)生じる事になります。その為,図3に示すモーターに力を与えないと,電気対流によって勝手に流れが発生してモーターが回転することになります。図6には,負の粘性を発見したときの動画を示します。

なお,この負の粘性現象は,液晶自身の粘性が負になるのではなく,電場と液晶分子の相互作用により,流れを起こす力が電場によって発生することがこれまでの研究で分かっています。負になるのはあくまでも”見かけの”粘性です。この負の粘性現象が発見されたのは,通常の物質では世界で初めてです。今回の活動では,この負の粘性現象を直接観察して頂く予定です。


図1:せん断速度$\dot{\gamma}$とせん断応力$\sigma$



図2:ニュートン流体



図3:粘度計の模式図



図4:せん断速度とせん断応力



図5:強磁性体の履歴特性



図6:負の粘性による自発的回転